※画像はイメージです/PIXTA

相続をめぐるトラブルにはさまざまなものがありますが、相続人のうちの誰かが被相続人の預金を無断で引き出していたというケースは多くみられます。このような場合、引き出されたお金を取り戻すことはできるのでしょうか。解説していきます。

「被相続人の死後」に預金が引き出されていた場合

被相続人の死後に預金が引き出されていたケースでは、次のような事情が考えられます。

 

・葬儀のために必要だった

・遺言で指定されていた

・被相続人を介護していたから預金をもらってもいいと思った

 

被相続人が亡くなったとき、その人の遺産は相続人の共有財産になります。したがって、遺産分割が終わるまで被相続人の預金を引き出すことは認められません。

 

なお、被相続人が死亡したことが銀行に知られると預金口座が凍結され、その時点で預金の無断引き出しはできなくなります。

 

■葬儀のために必要だった

通常、人が亡くなったときには葬儀を行います。葬儀費用は、受け取った香典でまかなうか被相続人の遺産から負担することが一般的ですが、一時的に遺族が立て替える場合もあります。

 

遺族に葬儀費用を立て替えるだけのお金がなく、やむをえず被相続人の預金を引き出す場合は、トラブルを避けるためにも、他の相続人の了承を得ておくとよいでしょう。ただし、葬儀費用に対して引き出した金額が多すぎると横領が疑われます。

 

■遺言で指定されていた

遺言があって、預金を引き出した人が預金の相続人に指定されているというケースもあります。ただし、この場合でも無断で預金を引き出すことはできません。銀行に遺言書やその他必要書類を提出して、正式に名義変更の手続きをしてからでなければ、横領が疑われます。

 

■被相続人を介護していたから預金をもらってもいいと思った

被相続人の介護をしていた人には、生前の苦労に報いるだけの財産をもらって当然という気持ちを持つ人もいます。気持ちはわかりますが、法的に必ずしも認められる主張ではありません。遺産分割協議の場で事情を話して、他の相続人に理解を求めることが正しい方法です。

「横領された預金」は取り戻せる

預金を引き出した理由に正当性がなく、相続人どうしの話し合いでも解決できない場合は、法的な手続きで預金を取り戻すことができます。

 

■弁護士に相談を

横領された預金を取り戻すためには、まず弁護士に相談します。弁護士の中でも、遺産相続の相談に強い弁護士を選んで相談することが重要です。弁護士の選び方については、次の記事を参考にしてください。

 

具体的にどのような手続きをするかは弁護士との話し合いで決まりますが、ここでは一般的な手続きをご紹介します。

 

・刑事責任は問えない

相続財産の横領は窃盗と同じように刑事責任を問えるのではないかと考えがちですが、親族の間の遺産の横領で刑事責任を問うことは難しいケースが大半です。相続財産を横領した人を相手に民事訴訟を起こすことが一般的です。

 

訴訟は「不当利得返還請求」または「不法行為に基づく損害賠償請求」として提起します。どちらの方法をとるかは弁護士の判断によりますが、「不法行為に基づく損害賠償請求」は時効が3年と短いため、多くの場合は「不当利得返還請求」として訴えが起こされます。

 

ただし、民事訴訟を起こしても多くの場合は和解による解決が図られます。

 

・取り戻せる金額は法定相続分まで

横領された預金のうち取り戻せる金額は、返還を求める人の法定相続分の範囲までです。必ずしも全額取り戻せるわけではありません。

 

■横領された預金を取り戻すために必要なもの

訴訟を起こすには、預金が横領されていることを示す証拠が必要です。次のようなものが準備できるとよいでしょう。

 

・通帳や預金の取引履歴など横領の事実がわかるもの

・預金を引き出した人が被相続人以外であることを証明するもの

 

預金を引き出した人が被相続人であるかどうかは、預金の払出用紙の筆跡で判断することができますが、ATMから引き出した場合は判断できません。

 

そこで、被相続人が預金を引き出すことができない状態にあることを証明して、被相続人以外の人が預金を引き出したことを立証する方法もあります。被相続人が認知症であったり寝たきりであったりした場合は、医師の診断書やカルテなどが証拠になります。

話し合いで解決しない場合は弁護士へ

以上、相続人のうちの誰かが預金を無断で引き出していた場合の対処方法についてお伝えしました。まず、預金が引き出された事情を確認して、横領が明らかになった場合は弁護士に相談することをおすすめします。

 

相続財産の横領では刑事責任を問うことは難しい場合が多いため、民事訴訟で解決が図られます。訴訟に必要な証拠として、預金通帳または預金口座の取引履歴、被相続人の病状を示す診断書やカルテが準備できるとよいでしょう。

 

 

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本連載は、税理士法人チェスターが運営する「税理士が教える相続税の知識」内の記事を転載・再編集したものです。

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