住人が居座った場合、退去させるには「手続き」が必要
【建物明渡しの強制執行】
『長屋の花見』の家主が住人に建物の明渡しを請求しても、居座る可能性があります。居座る場合、家主自身が実力行使で住人を建物から引きずり出すことはできません(自力救済の禁止)。
このような場合、民事執行法の直接強制によれば、強制的に建物を明け渡させることができます。前提として、債務名義(確定した判決など)が必要です。義務違反による解除の主張をしたらすぐに直接強制ができるわけではなく、まずは建物明渡請求訴訟で勝訴判決を得るなどしなければいけません。そのうえで、民事執行手続により執行官(国家公務員)が債務者の不動産に対する占有を解いて、債権者に占有させます。
具体的には、第1段階として、1ヵ月後を引渡期限と定め、明渡しの催告をします。引渡期限などを記載した公示書を物件内の冷蔵庫などに貼り付けます。そして、第2段階として現実の執行(断行)をします。執行官は、戸が施錠されていても解錠業者に開けさせることができますし、債務者などが抵抗するときは、警察に援助を求めることができます。鍵を取り替え、新しい鍵を債権者に渡して執行完了になります。
賃借人が亡くなっても「相続人」なら住み続けられる
【不動産賃借権の相続】
『長屋の花見』では、父の代から長屋に住む住人がいます。父が死亡した場合に、子は引き続き居住できるのでしょうか。
賃貸借契約の場合は、賃借人が死亡しても、賃借権の相続が認められます。これに対し、無償で使用収益する使用貸借契約の場合は、賃借人の死亡によって契約が終了します(597条3項)。貸主は借主を信頼して無償としているので、使用借権は相続になじまないことが理由です。
『長屋の花見』の場合、賃貸借契約なので、父が亡くなっても、相続人である子は建物賃借権を相続し、引き続き居住することができます。汚い長屋だから家賃が発生しないと思っている住人がいますが、仮に使用貸借契約の場合は、賃借人の死亡によって契約が終了します。
なお、死亡した賃借人に相続人がいない場合、原則として賃貸借契約は終了しますが、同居人がいるときは、その同居人を保護する判例と借地借家法の規定があります。