精神保健福祉士である野坂きみ子の書籍『“発達障害かもしれない人”とともに働くこと』より一部を抜粋・編集し、「大人の発達障害」が抱える問題点について解説していきます。

「あの人は発達障害」と決めつけることはできない

配偶者など親しい関係において精神的身体的症状に至る、カサンドラ症候群(※)が知られるようになりましたが、職場においてもつらい思いをしている人がいます。

 

仕事がうまくできない、周りの人とうまくつきあえないなどで悩み精神的不調をきたし受診したところ、発達障害だとわかる人もいますが、発達障害と思われる人に反応し具合が悪くなり受診する人もおり、両方の人がいるのです。

 

発達障害の人を責めるとかそういうことではなく、事実として、職場の中で発達障害の人も発達障害の周りにいる人も、同じようにメンタルクリニックを受診してきます。

 

発達障害に注目が集まっていますが、周りの人のつらさはあまり知られていません。メンタルクリニックを受診するに及んでは、発達障害があってもなくても、患者さんとして違いはありません。

「グレーゾーン」という言葉も隆盛しているが…

たとえば、冷え症かもしれない女性社員がいるので冷房の温度を高く設定する。心臓病かもしれない社員には荷物を持たせない。冷え症なのか、心臓病なのか決められないのに、暑がりの社員、荷物を二倍持たなければならない社員はどうしたらよいでしょう(まぁ、冷え症か心臓病かは、聞けばわかりますけど……)。

 

発達障害への対応についての提言は、そもそも前提が違います。発達障害と診断された後と、発達障害かもしれない、わからないという時点での問題は、実際の現れ方と困り方が違います。

 

発達障害と診断され精神障害として認められれば、社会的にも障害として認められます。その時点ではじめて、本人と職場の合意をもとに、どのように対応していくか考えることができます。

 

職場は、家庭でも学校でもありません。本人のプライバシーや人権にも関わりますから、はっきりしないうちから、対応はできませんし、求めることもできません。

 

昨今は、グレーゾーンという言葉もありますが、発達の凸凹が、明らかに障害とわかる人から一般の人までグラデーションのようにあり、判断の難しい障害です。そのため、あいまいな印象と、誤解や不安を与えやすいと思います。

 

著者は、職場で出会う発達障害かもしれない人たちのことを、「発達障害の傾向がある人」と呼びます。発達障害の傾向がある人にも周りの人にも、どちらかに肩入れする話ではありません。両方の人たちの悩みや苦しさには、人間関係的な閉塞感を感じ、少しはオープンに考えることができ、ともに、病まずに、生きていくことはできないものかと思っています。

 

 

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野坂 きみ子

1958年、札幌生まれ。
大学卒業後、精神科病院、リハビリ病院、総合病院、一般病院と30年余り病院の医療福祉相談員として働く。その後3年間、ハローワークで障害者就労支援の仕事をする。現在メンタルクリニック勤務。精神保健福祉士。北海道大学大学院社会システム科学博士後期課程中退。

 

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『“発達障害かもしれない人”とともに働くこと』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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髙山 哲夫

幻冬舎メディアコンサルティング

最新医療機器より大切なものは、患者さんを想う心――。著者のところには、がん、糖尿病、嚥下困難、胃ろう、認知症、独居うつ、褥瘡など、様々な病気をもつ高齢の患者さんがやってくる。地域の高齢な患者さんの声に真摯に耳を…

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