ヘッジファンド評価の指標「ソルティノ・レシオ」…株式市場の分析に活かす方法

ヘッジファンドのパフォーマンス評価にも使われる「ソルティノ・レシオ」は、下落リスクに対してどれくらいのリターンが得られたかを判断する指標です。今回は、この指標を株式市場の分析に活用する方法について考えます。※本連載は、東海東京調査センターの中村貴司シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)への取材レポートです。

「ソルティノ・レシオ」は、下落リスクも考慮した指標

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

今回は、ヘッジファンドのパフォーマンス評価に使われる「ソルティノ・レシオ(下落リスクの抑制度合い:下方リスクに対してどのくらいのリターンが得られたかを判断する指標)」の概念を活用し、日本株の今後の展開を読み解くためのアイデアを考えてみたい。

 

ファンドがリスクを抑えながら高いリターンを獲得したかを判断する場合、一般的に「シャープレシオ「(ファンドのリターン-無リスク資産のリターン)÷リスク(標準偏差)」が用いられる。ただ、計算式に使われるリスク(標準偏差)はファンドが上昇したときも下落したときも同様に「リターンの振れ幅」として計算される(ファンドが上昇したときの振れ幅と下落したときの振れ幅の方向性の違いを考慮していない)という難点がある。

 

そのため、(上昇よりも)下落リスクをどうコントロールするか(下落の幅をどのくらい抑えられるか)を考慮した「ソルティノ・レシオ(ファンドのリターン-無リスク資産のリターン)÷下方リスク(下方偏差))の高さを踏まえ、判断することも有効だろう。

 

ソルティノ・レシオの下方偏差の概念を運用者や市場参加者の投資予測に結びつけると、一つの投資アイデアになりやすい。

下値目途の違いによって、反発後の売り圧力が異なる

たとえば、ファンダメンタルズ分析を重視する年金基金の「ファンドマネージャーA(以下、A)」は、今後、職場や大学などでのワクチン接種の加速による内需の回復期待を背景に株価の上昇がもたらされると想定。

 

9月末までの日経平均株価の上値目途は3万1000円と予想している(通常、年金はTOPIX運用がベースだが、ここではわかりやすくするため日経平均株価で説明している)。一方、9月末までの日経平均株価の下値目途については、8月の米ジャクソンホールでのテーパリング(量的緩和縮小)議論の本格化や、米長期金利の上昇に伴う値がさグロース株のバリュエーション調整リスクなどを勘案し、「2万6000円」程度と慎重に予想したとしよう。

 

また、移動平均線を重視する「個人投資家B(以下、B)」も分析手法は異なるものの、Aと同じく9月末までの日経平均株価の上値目途を3万1000円と予想。下値目途については200日線(6/24時点で約2万7230円程度)を基に「2万7000円」と予想している。

 

一方、日米欧の株価と業績トレンドの時間差をベースとしたグローバルクオンツ運用を行う「ヘッジファンドマネージャーC(以下、C)」は、9月末までの日経平均株価の上値目途についてはA、Bと同じく3万1000円としている。しかし、欧米とのワクチン格差の縮小に伴う日本の業績トレンドの改善を背景に海外投資家のグローバルアロケーション(資産配分)の資金流入が下支えすることで、下値目途を「2万9000円」程度と高めに予想したとしよう。

 

A、B、Cともに上値目途は「3万1000円」で投資スタンスは「押し目買い(下値目途以下での買い下がりも含める)」を想定。

 

仮に株価の調整場面でもA、Bが下値として予測する2万6000~7000円以下に下落せず(たとえば2万8000円台~2万9000円台前半を押し目として反発し)、再び3万円突破に向けて上昇トレンドを取り戻した場合、下値予測の違いは市場にどのような圧力をもたらす可能性があるのか?

 

この場合、下値目途を高く予測・設定することで押し目買い(2万9000円以下からの買い下がりを含む)ができたCとは異なり、市場に不確実性が高いなか、下値に慎重になりすぎて押し目買いの機会を逃した、または想定ほど買えなかったA、Bはマーケットに追随できないリスクを回避する行動を取らざるを得なくなる(特に顧客の資金を運用し、同業他社とともにベンチマーク競争にさらされている年金基金のAの場合はそうした行動をとりやすくなる)。

 

つまり、現金比率を低下させる、またはポートフォリオのβ(ベータ:市場感応度)を高める手法をとる可能性が高くなる。

 

これは市場参加者(ここではA、B、C)の上値目途・投資スタンスが一緒でも下値目途(予想の下方偏差)と株価の経路との乖離が大きければ大きいほど乗り遅れた(予想ソルティノ・レシオの低い)投資家の上値追いやβ等リスクを高める買い圧力が強まる可能性を示す。

 

逆に市場で乗り遅れた投資家が少ないほど、つまり想定の下値目途近辺で押し目買いができた投資家が多いほど市場での上値追いの買い圧力は小さくなる可能性がある。

 

市場参加者の下値目途の散らばり具合と株価経路にも注目しつつ、どのタイミング・水準で乗り遅れまいとする投資家の買いが入りやすいか(株価の反発力の強弱を含む)など、ヘッジファンドやタクティカル(戦術的)な視点も投資アイデアとして活用したい。

 

中村 貴司

東海東京調査センター

投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)

 

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東海東京調査センター
投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)

山一證券、メリルリンチ日本証券、損保ジャパンアセット(現SOMPOアセット)などでの富裕層・法人営業に加え、年金基金、投資信託のアナリストやファンドマネージャーとして新興市場やオルタナティブを含む幅広い市場・商品の担当責任者を経て、2016年に東海東京調査センター入社。

現職では短中期の戦術的資産配分(タクティカル・アセットアロケーション)やオルタナティブ投資(ヘッジファンド・テクニカルやコモディティ戦略含む)の視点を踏まえたグローバルな日本株の市場分析等を行う。他の代替資産・戦略としてJリート投資戦略、ESG投資戦略、行動ファイナンス投資戦略などもカバーしている。

英国国立ウェールズ大学経営大学院MBA。アライアント国際大学・カリフォルニア臨床心理大学院米国臨床心理学修士号(MA)。慶應義塾大学商学部卒。国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、国際テクニカルアナリスト連盟検定テクニカルアナリスト(MFTA)、CFP、英国王立勅許鑑定士(MRICS)、不動産証券化協会認定マスター、中小企業診断士。

日経CNBCなどのTV・メディアに出演。日経新聞、QUICK、ロイター、ブルームバーグ、時事通信、東洋経済オンライン、幻冬舎ゴールドオンラインなどでも執筆、コメントを行う。ヘッジファンド・テクニカルのキャリアとして世界のテクニカルアナリスト協会を束ねる国際テクニカルアナリスト連盟(IFTA)の理事などを歴任。早稲田大学ビジネスファイナンスセンターや同志社大学、青山学院大学等で講師を務める。

著書には投信営業に行動ファイナンスアプローチなどを活用した『会話で学ぶ!プロフェッショナルを目指す人の「投信営業」の教科書』(2021年)がある。

著者紹介

連載東海東京調査センター「オルタナティブ投資戦略取材レポート」

このレポートは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたもので、投資勧誘を目的としたものではありません。投資判断の最終決定は、お客様自身の判断でなさるようお願いいたします。このレポートは、信頼できると考えられる情報に基づいて作成されていますが、東海東京調査センターおよび東海東京証券は、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。なお、このレポートに記載された意見は、作成日における判断です。

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