国税庁は国際的な租税回避を阻止するため、海外資産の情報収集および税務調査体制を整備しています。また国際戦略の一環として、2017年から全国の国税局に設置された部署が富裕層PT(プロジェクトチーム)です。今回は国税組織の国際課税への取り組みと、富裕層PTの設置による相続税調査の影響について説明していきます。

富裕層と海外資産への税務調査は国税庁の重点課題

海外資産の保有は、富裕層が租税回避目的で利用することが多いため、国税庁は富裕層と海外資産への税務調査を重点調査項目としています。

 

そのため、近年の相続税調査のうち海外資産に関連する調査件数は年々増加しており、特に富裕層PTが全国の国税局に設置された2017年(平成29年)からは、海外関連事案に係る調査件数が一段と増加しています。

 

出所:国税庁HPで公表されている資料を基に作成※かっこ内の数字は海外資産に係る非違計数
【図表】相続税の海外資産関連事案に係る調査事績 出所:国税庁HPで公表されている資料を基に作成※かっこ内の数字は海外資産に係る非違計数

富裕層PTは国税庁の国際戦略トータルプランの一つ

国税庁は「海外資産の情報収集」、「専門調査担当者の充実」、「グローバルネットワークの強化」の3つの視点から国際課税に取り組んでいます。その中で富裕層PTは「専門調査担当の充実」の視点から創設された部署であり、富裕層の情報収集を主な活動としています。

 

見逃さない…(※画像はイメージです/PIXTA)
見逃さない…(※画像はイメージです/PIXTA)

 

■納税者から提出される法定調書から海外資産の情報を把握している

国税組織は納税者や金融機関に法定調書を提出させることで、海外資産の保有状況や資料を収集しています。

 

法定調書とは、法律上で提出が定められた国外送金等調書、国外財産調書、財産債務調書等の書類をいい、要件に該当する場合には必ず税務署に提出しなければなりません。法定調書未提出の際には罰則規定が存在し、「国外財産調書」が未提出で税務調査を受けた場合には加算税の税率が上乗せされます。

 

■富裕層PTは富裕層専門の国際課税対策部署

国税庁は国際課税関係の体制整備の一貫として、「国税庁国際課税企画官」や「国税局統括国税実査官(国際担当)・国際調査課」などの部署を設置しています。

 

富裕層PTは国際課税対策部署の一つであり、富裕層の中でも特に高額な資産を有すると認められる富裕層や、その関係者の管理及び調査の企画をする部署です。

 

■他国と租税条約を結び国同士での情報交換体制を整備している

自国にある財産を海外へ持ち出し、租税回避をする行動は世界共通です。そのため、日本以外の国においても租税回避を阻止するために国際課税の強化に取り組んでおり、そういった国と租税条約を結ぶことでお互いに情報交換をしています。国同士で結ぶ租税条約の中には、税務調査に協力する内容も盛り込まれており、海外資産の調査に必要な情報提供の要請も可能です。

 

また、非居住者の保有する金融口座情報を自動的に情報交換する国際基準を設けることで、国を超えての情報共有ができる仕組みも整えられています。

「富裕層」の定義と富裕層PTの対象者となる選定基準

世間一般の「富裕層」と、国税庁が定めている「富裕層」の定義は異なり、また富裕層PTは富裕層の中でも限られた人のみを対象としています。

 

■世間一般の富裕層とは金融資産を1億円以上保有している世帯

世間一般の富裕層とは、金融資産を1億円以上から5億円未満保有している世帯をいい、日本では100万世帯以上が富裕層に該当するといわれています。

 

一方、金融資産の保有額が5億円以上の世帯は「超富裕層」と定義され、日本では8.4万世帯が超富裕層です。

 

なお、日本の1世帯当たりの人数は2.38人(平成27年)ですので、国民の50人に1人は富裕層以上の世帯に属している計算になります。

 

■国税庁が定める富裕層とは経常的な所得と保有資産が特に多い人

国税庁では有価証券・不動産などの大口所有者や経常的な所得が特に高額な個人を「富裕層」として定義しており、富裕層と認定する金額基準は公表されていません。

 

ただ、国税庁は「財産債務調書」の提出義務者を富裕層として判断していることが考えられます。財産債務調書は年間所得金額が2,000万円を超え、3億円以上の財産または1億円以上の有価証券等を有する人のみが提出する書類であり、この調書を提出する金額基準として設定されたのが富裕層の基準だと推測されるためです。

 

■富裕層PTの対象となるのは超富裕層に該当する人のみに限定される

富裕層PTの調査対象に該当する人は、富裕層の中でも特に財産を保有している人に限定されます。

 

富裕層PTの調査対象の基準は公表されていませんが、超富裕層(金融資産が5億円以上)に該当する世帯に加え、保有している不動産や関連法人などを総合的に加味した上で各国税局が選別している可能性が高いです。

 

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本連載は、税理士法人チェスターが運営する「税理士が教える相続税の知識」内の記事を転載・再編集したものです。

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