クリニックにとって理想の経営モデル「利益率重視型」
(2)利益率重視型(ポイントを絞り、利益を出す)
ドクター1人のクリニックで経営効率を最大限に追求する経営モデルです。【図表】では「こ」がそれに該当します。多くのクリニックが目指すモデルケースといえるでしょう。一般企業でいうところの「超優良企業」に当たります。
レセプト分析により利益の出る診療行為を特定し、資金と時間を集中的に投下します。例えば生活習慣病が中心の内科クリニックでは、「脂質異常」「高血圧」「糖尿病」等の患者を中心にした診療体制を作ります。特定疾患療養管理を着実に行う体制を整えるために、必要な患者サービスとスタッフの配置を考えていきます。
この経営モデルでは、経営指標として重点的に管理する診療行為を特定するところからスタートします。それにより、ドクターやナースが取るべき行動内容が明確になるのです。
最低限の資金で手堅く経営できる「小規模バランス型」
(3)小規模バランス型
ほどほどの売上や利益を上げる、平均的なクリニックの経営モデルです。【図表】では「く」や「け」がこれに該当します。事業計画を立てなくても、ほとんどのクリニックがこのあたりに落ち着いてきます。
それが可能になるのは、租税特別措置法26条により、クリニックは税制面で優遇されているからです(医師優遇税制といわれています)。この法律のおかげで、保険診療収入が年間5000万円以下の小さいクリニックでも、2000万円前後の利益(所得)を残すことができるのです。
この経営モデルは、①省スペースにより家賃を低く抑えられる、②少人数のスタッフでクリニックを回せる、③診療材料、薬品等の仕入率が低い、等の理由でランニングコストが低い皮膚科、耳鼻科、歯科等の診療科目と相性が合います。患者数を抑えなければならないので積極的な経営とはいえませんが、最低限の資金で手堅くクリニックを経営することができます。
患者数は少なめだが利益率60%…堅実なクリニックの例
「小規模バランス型」の経営を実践している事例として、内科のBクリニックをご紹介しましょう。
Bクリニックの院長の開業ビジョンは、リスクを最小化するために小規模なクリニックにすることでした。借入金はできるだけ早く完済して身軽になり、老後のための財産を形成したいと考えている堅実派です。雇用するスタッフも医療機器も必要最小限。開業に備えて自己資金も十分に蓄えていたため、借入金は2000万円で済みました。もちろん機器のリースもなく、7年で返済が終わる事業計画を立てています。
そんなBクリニックには、一日に約30人の来院患者があります。平均値より少ないので、儲かっていないように見えますが、ランニングコスト(支出)が抑えられているため、利益率は60%を超えています。所得は勤務医時代の1.5倍に増えましたが、時間にゆとりができたおかげでプライベートも充実しており、QOL(生活の質)は高いようです。
借入金は予定より大幅に早い3年で完済し、その後は今後の事業展開を見据えて医療法人化。必要以上の給料は取らず、法人内に内部留保を増やし、退職金を払う準備をしています。
Bクリニックの事例にドラマ性はありませんが、日本で最も普遍的なクリニック像です。クリニックは民間企業に比べればはるかに倒産リスクは少ないですが、それでも両肩にのしかかる責任の重さは勤務医時代とは比べものになりません。経営には向き不向きもありますので、堅実志向になるのは当然といえます。
(1)や(2)のように、攻めの経営を考えているのであれば、クリニックで数値管理を行うことを検討してください。先生方に目指していただきたいのは(2)利益率重視型のモデルです。レセプトデータを活用し、経営の効率化を追求してください。医療費が抑制される時代において求められるのは、目標を達成するための数値管理による「経営」です。
どれがベストなのかはドクターによって違いますが、目指していく方向によってクリニックの作り方(マネジメントの手法)が異なります。ご自身が理想とするクリニック像をできる限り具体的に思い描くことからすべては始まります。
柳 尚信
株式会社レゾリューション 代表取締役
株式会社メディカルタクト 代表取締役
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