医業収入追求型で「地域の顔」になったクリニックの例
「医業収入追求型」の経営を実践している事例として、整形外科のAクリニックをご紹介しましょう。
Aクリニックの院長は開業前から事業意欲が旺盛で、将来は分院展開や介護事業を展開したいと考えていました。その布石として、本院は「地域の顔」になるクリニックを目指して、設備を充実させていきました。
あらかじめ分院長も育てる計画を立てていたため、開業場所は大型店舗の一角を選定。初期投資は1億円を超えただけでなく、非常勤ドクターの人件費をはじめとしたランニングコストも一般的なクリニックの倍以上です。新規開業の事業計画としては2軒分以上の事業予算ですが、院長には臆した様子もありません。もともと複数のドクターでクリニックの運営をするつもりで事業計画を立てていたからです。
常時2診体制で診療するだけでなく、常勤のPT(理学療法士)がリハビリとデイケアを行うワンストップ体制が評判を呼び、1年目にして1ヵ月の来院患者が300人を超える「人気クリニック」となりました。
売上規模は大きいですが、ランニングコスト(支出)も大きいので見た目ほどは儲かっておらず、クリニックの利益率は20%程度です。これくらいの規模感になると、クリニックの院長というよりも経営者としての資質が問われてきます。
院長は、ドクターとしての日常診療に加え、勤務医やスタッフとの面談等、労務管理にも時間を割かなければなりません。外来診療に在宅診療、デイケアと部門も多岐にわたるため、毎月の業績管理にも手間がかかります。しかし院長の目標は「分院展開」にあるので、そのことを煩わしく感じていません。本院での稼ぎにより資金を蓄え、目標の実現に向けて着々と準備を進めていきました。
それから2~3年経った今、Aクリニックはいくつかの分院を展開しています。「院長ではなく社長になりたい」という開業前の目標どおり、院長は現場からは身を退き、経営に専念されています。
開業前に「分院展開したい」とおっしゃるドクターは少なくありません。しかし、実際に分院展開されるドクターはごくわずかです。ただ漠然と思っているだけで、具体的な目標を描いていなかったからでしょう。開業後の多忙な時期を乗り切って、経営が軌道に乗ってくる過程で、夢はいつしか消えてしまっています。大規模クリニックはなりゆきで大きくなったわけではなく、「大きくする」という明確な意思を持っていたから大きくなれたのです――。そんなことをAクリニックの院長は教えてくれています。