100円のホワイトボードの筆談で会話はできたか
「この耳毛が外からの音を阻害しているにちがいない」と確信した私は、耳毛カッターを購入しじーじの耳毛を綺麗にしてあげることにした。いきなり耳毛そりをしようとするものだから、じーじは激しく抵抗したが、「いい男になるんだからちょっと我慢して」の一言で、納得。かなりの音がするが、じーじにはあまり聞こえないらしく、「だれか庭で芝刈りをしているのか」と言うほどだ。
が……、作戦は失敗。耳毛はきれいにカットされたが、相変わらず聞こえない。
これは、耳の入り口ではなく、奥に問題があるのだろう。きっと耳垢が蓋をしているから音が聞こえないに違いないと考え、その後、耳鼻科へ連れて行った。きれいに耳垢のお掃除をしてもらうも、まったく改善は見られない。またまた作戦は失敗なのである。
「じーじ、夕飯できたよ」と声を掛ければ、「5月なのに、雪が降ってきたのか?」と、「ゆ」という音しか聞こえていないらしく、まったく会話が成り立たない。困ったものである。
じーじの耳元で、一文字一文字ゆっくり大きな声で話してみるが、「へい?っ」と聞き返すじーじ。私は、だんだんイライラするので、夕飯なんて文字数の多い言い方はやめにして「ご~・は~・ん~」とさらに大きな声を出す。
すると「うるさいな、聞こえている」とじーじ。二人でイライラ星人に変身してしまい、楽しいはずの夕飯の時間は台無しになるという悪循環。どうにかならないものかと考えていた時に
ピカッとひらめいた。じーじは字が読めるではないか!筆談だよ!筆談!
そこで、100円均一のお店に行き、ホワイトボードを購入。何回か話しかけても聞こえない時にはホワイトボートに伝えたいことを書いて見せるという作戦だ。
その日の夕食の時間、ついにホワイトボードの出番が現れた。テレビを見ながらコロナの話をしている。その時「マンボーって言ったらいかんのだろう、正式名称はなんていうんだ」とじーじ。「まん延防止等重点措置だよ」と答えたが「へっ?」「えっ?」こんな長い文章聞き取れるわけもない。そこで「まん延防止等重点措置」とホワイトボードに書いて見せたところ。「お~、まん延防止等重点措置か」と作戦成功。
これで、会話がスムーズになりストレスが減ると思ったが……。
ホワイトボードを貸してくれと、なんと声を出さずジェスチャーで表現するじーじ。思わず、私まで「これ?」と指をさしてじーじに渡したところ、なにやら一生懸命文字を書きだした。書き終わると、無言でホワイトボードを指さした。
そこにかかれていた文章は、
「俺はいつ、ワクチンが打てるのか」
だった。
お~い、じーじ。「私は耳遠くありませんから~~」と、爆笑しながら答えると、これは聞こえたらしく大爆笑するじーじ。100円のホワイトボードでお互いのイライラは解決したのであった。
黒川 玲子
医療福祉接遇インストラクター
東京都福祉サービス評価推進機構評価者