高齢化が進展した日本では、日々相続の問題が発生しています。相続は円満に終了できるケースばかりではなく、親族関係がこじれ、最悪は断絶という悲しい結末になることもあります。トラブルの理由はお金だけではありません。相続以前から「特有の問題」をはらんでいることが多いのです。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

相続問題も背景に…40年ぶりの民法改正の中身は?

高齢化の進展により、今後も相続問題・相続トラブルが増加することが予想されます。そのような事情を背景に、2018年7月、民法改正が行われました。改正された主な内容は下記となります。

 

①配偶者が相続後も無償で自宅を使用収益できる権利「配偶者居住権」を創設


②婚姻20年以上の配偶者から自宅の贈与等を受けた場合、持ち戻し免除の意思表示があったとして「特別受益(財産の前渡し)」に該当せず、配偶者は自宅を相続した上で残りの財産の法定相続分を取得できる

③介護に貢献した相続人以外の親族は、相続人に対し「特別寄与料」を請求できる

④自筆証書遺言の預貯金や不動産等の財産目録はPC作成も可に

⑤自筆証書遺言も法務局で保管してもらえるように

⑥預貯金の3分の1について、各相続人は法定相続分まで単独で払戻しを請求できる

⑦遺留分算定の際、相続人に対する贈与は相続開始前10年以内のものに限り算入

⑧遺留分は現金で支払うものとし、不動産の共有・分割はしない

 

これらの変更点が、実際の相続でどのように影響するのか、より詳細に見ていきましょう。

 

 

配偶者の「住まいと生活」を手厚く守る方向へ

 

子どもがいる場合の配偶者の法定相続分は財産の2分の1です。したがって、法定相続分で分割すると、子どもの取り分を捻出するために家の売却が必要になるケースもあります。どのため、配偶者が暮らす家に限っては、所有権とは別に「配偶者居住権」を新設し、住み続けることができるようになりました。

 

また、婚姻期間が20年以上の場合、遺言による遺贈もしくは贈与された居住用の家は、遺産分割の対象から外せるようになりました。配偶者居住権の相続税評価額は、通常の評価額よりも低くなるので、配偶者が法定相続分で相続しても、住んでいる家を失わずにすむうえに、現金を相続できるケースが増えます。

 

たとえば自宅4,000万円、現金2,000万円の財産を配偶者と2人の子どもで分ける場合、法廷割合では配偶者3,000万円、子供1,500万円となり、配偶者は自宅全部を相続できず、売って分けることにもなりかねません。しかし「配偶者居住権」により、仮に半分の2,000万円となれば、自宅に住みながら現金1,000万円相続できることになります。なお、居住権の評価額は住む年数などに応じて変わり、権利を行使するためには登記が必要となります。

 

●介護に寄与した「相続人以外の親族」も請求が可能に

 

亡くなった人の介護などをした相続人以外の親族が、相続人に金銭を請求することもできるようになりました。

 

たとえば、同居している長男の妻が義母を献身的に介護しても、これまでの法律では相続人の寄与分は考慮されても、相続人の妻の立場では財産を受け取ることはできず、不満が残ることがありました。

 

そうした状況が解消され、介護についての請求ができるようになりました。今後は介護について貢献した分を還元できるようになります。

 

●要件緩和により「自筆証書遺言」も作りやすくなった

 

自筆の遺言書は、全部を遺言者が自分で書くことが要件となっており、不動産が多い場合や預貯金が多い場合はハードルが高かったと言えます。

 

そうしたハードルを下げるため、不動産や預貯金などの財産目録に関しては、パソコンで作成したものでも認められることになりました。また、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるようになったので、いままで作成を躊躇っていた方も作成しやすくなったと言えるでしょう。

 

●預金の仮払い制度

 

これまでは、相続になれば亡くなった人の預金口座は凍結されてしまい、相続人全員の合意がないと預金が下せませんでした。そのため、葬儀費用や諸手続きの支払いに困る家庭が多かったのですが、預貯金の3分の1について、各相続人は法定相続分まで(各金融機関にて150万円まで)単独で払戻しを請求できるようになり、当座の費用の支払いの不安が軽減されました。

 

●「特別受益」の範囲が決められた

 

遺留分を侵害されている相続人は、遺留分を請求する権利がありますので権利を行使しますが、遺留分算定の財産確定が難題であり、しばしば争点となっていました。その対象として、相続人に対する贈与を「相続開始前10年以内のもの」に限り、算入することとなりました。

 

●遺留分は「現金」で支払うことに

 

遺留分減殺請求において不動産の分割を希望された場合、不動産が共有となり新たなトラブルを引き起こすことがありました。そのため、遺留分の減殺請求は現金での支払いに限定されました。

 

 

曽根 惠子

 

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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