精神保健福祉士である野坂きみ子の書籍『“発達障害かもしれない人”とともに働くこと』より一部を抜粋・編集し、発達障害の子どもを持つ親たちがさらされてきた、「育て方が悪かったからではないか」という誤謬の背景について見ていきます。

「育て方が悪かった」という誤解が生じる恐ろしさ

発達心理学は魅力があり、多くの人が興味のある分野のようです。しかし発達障害を考えるに及んで、誤解を含む可能性は否めません。

 

先にあげたように、乳幼児期には母親や他人の識別、言語の獲得、児童期には集団性、社会性の獲得などが発達課題としてあげられますが、発達障害のある子はなかなか達成できません。

 

それに対して、それぞれの発達段階の発達課題の達成が障害されたから発達障害になったのだという考えに結びついてしまうかもしれません。発達障害の発達は、誕生以降加齢によって前進する発達というよりも、生来の脳神経的特性として、ある種の発達が障害されている状態に関することです。

 

発達心理学的に、その発達時期における家族や学校の対応がまずかったので、大人になってからは職場や家庭の対応がまずかったので、発達が障害されたということではありません。現在は多くの研究によって、生来の脳神経的な問題であることが認識されています。

 

もちろん人に関することですから、成育歴の中で症状の増悪などの影響もありますが、基本的に親などによって発達が妨げられたから発症したということではありません。本来的な発達心理学の意図ではなくとも発達課題は達成すべきものだという観念、あるいはこう育てたらこうなるというような因果論的な考え方は、これまでも発達障害の子どもを持つお母さんたちがさらされてきた、育て方が悪かったからではないかという誤謬につながります。

 

そうではないのです。現在、発達障害は脳神経の問題として社会性やコミュニケーションや認知など、ある種の発達が障害される、先天的な障害であるとの認識に至っています。

 

だからといって、まったく変化しないとか成長しないと言っているわけではありません。発達課題の達成というような成長発達でなくとも、日々変化、成長します。それはすべての人においても同様です。

 

それぞれの発達段階の発達課題を完璧に達成してきたという人はおらず、この時期にこの発達課題を達成するのが当然だということでもありません。ひとつの指標です。不安をあおる材料となるのであれば、それはつらいことです。

 

そしてまた、障害だから状態は変わらないというもの誤解です。身体障害においても、視覚障害のある人は白杖を使い戸外も歩けますし、点字で小説も読めます。聴覚障害のある人は口唇を読んで何を言っているのかわかりますし、手話でたくさんおしゃべりもします。

 

障害は多義的な概念です。障害されている部位があるという事実と、それがどのように機能しているのかという状態と、生活するうえでどのような不都合があるのかという状況があります。

 

それはまた、ずっと同じ状態ではありません。加齢によっても、環境の変化、治療や努力によっても変わります。

 

 

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野坂 きみ子

1958年、札幌生まれ。
大学卒業後、精神科病院、リハビリ病院、総合病院、一般病院と30年余り病院の医療福祉相談員として働く。その後3年間、ハローワークで障害者就労支援の仕事をする。現在メンタルクリニック勤務。精神保健福祉士。北海道大学大学院社会システム科学博士後期課程中退。

 

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『“発達障害かもしれない人”とともに働くこと』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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髙山 哲夫

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最新医療機器より大切なものは、患者さんを想う心――。著者のところには、がん、糖尿病、嚥下困難、胃ろう、認知症、独居うつ、褥瘡など、様々な病気をもつ高齢の患者さんがやってくる。地域の高齢な患者さんの声に真摯に耳を…

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