自己評価は高すぎは禁物、謙遜の気持ちもそえて
それでは、実際に自己評価書のビフォー・アフターを見ていただきましょう。まず、私のアドバイス前に受験生が書いた自己評価書です。
「医学を志す者として必要な能力や適性は、高い志を常に持ち勉学に励むこと、奉仕の精神、優れたコミュニケーション力であると考える。そのうえで、私はすべての分野において、基礎から学ぶ姿勢と、それを発展につなげる応用力を養う努力は、浪人生活で得られたと思う。また、高校、浪人を通じてのボランティア活動により、他者に貢献する大変さや充実感を実際に肌で感じ、活動を通して同世代だけでなく高齢者や働いている方々と話すことで社会性を養えたと考えている。高校時代に文化祭の実行委員を務めたことで、リーダーシップや多くの意見を尊重することの大変さや大切さを身に沁みて感じた」
1浪生が書いた自己評価書としては、この程度でも良いのではないかという意見もあるでしょう。ただ、もう少し内容を整理して、分かりやすく伝えることが重要です。いくつか整理してみましょう。
まず「自分自身の能力と適性」について、私は、医師には以下の10の能力・適性が必要と考えています。
①患者の要望に正しく応える力(医術的正当性を基調に患者の自己決定権を尊重する、相手の話に耳を傾けることができる)、②公共性、公共心、③プラス思考、④研鑽能力、⑤利益衡量能力(複数の価値が対立している場合にそれぞれの利益を調整し、より良い結論を導く能力)、⑥アナロジーを理解する力(他者が置かれている状況を自己に置き換えて考える力)、⑦正当な開拓精神、⑧主導力と協調性、⑨体力、⑩情報収集能力。
以上、10の能力・適性です。もちろん、このほかに重要な能力として、正当な注意力・判断力、推理能力、空間認識能力などがありますが、実務的な意味合いが強いので、ここでは省略します。
また、能力と適性というものを本質的に精査すると、能力は何かをする力、技術、スキルであり、適性はどちらかというと潜在的な自然な才能と位置付けられ、微妙に異なります。しかし、自己評価書は字数が200字から300字程度の文章ですので、この場合は、ひとくくりにしてまとめてしまうのでも許容されると考えます。
以上、見てきたようにこの医師の能力、適性を明らかにしたうえで、自分にはそれがどのように備わっているのか、自分の能力・適性とどう合致しているかの視点で自己評価書を書いていくわけです。
では、私のアドバイス後の、修正例をご覧ください。
「まず、医師に必要な能力・適性について、私は研鑽能力、情報収集能力、公共性、主導力と協調性の4つが重要と位置付けています。これらの能力との関係で言えば、あくまで自己評価ですが、学ぶ姿勢を常に持ち、日々新たな情報を求め継続的に自己改革していく力は少なからず私に具備されていると評価します。また、高校、浪人時代を通じ携わった医療ボランティア活動により、他者に貢献する重みを知り、高齢者や医療従事者の方々からの学びを通して、奉仕の心、公共性も培われたと考えます。さらに、高校時代に従事した文化祭の実行委員活動により、主導力と協調性が得られたと考えます。以上、簡単ではありますが、能力・適性に関する自己評価とさせていただきます。」
いかがでしょうか? 設問にひとまずきちんと答えていることがわかると思います。整理もされて読みやすくもなりました。ただ注意したいのは、自己評価は高くあるべきですが、過大評価などの行きすぎは禁物ということです。謙虚な気持ちも忘れずに、さりげなく自己評価書に込めるようにしてください。
小林 公夫
作家 医事法学者