新興企業にとってSPAC(Special Purpose Acquisition Company:特別買収目的会社)は、時間短縮や価格リスクの低減といったメリットから、強力なイグジットの選択肢となっています。そして去年今年と、アジア太平洋地域ではその市場を大きく伸ばしています。日本におけるSPACの位置づけや認識とあわせて解説します。※本記事は、Datasite日本責任者・清水洋一郎氏の書き下ろしです。

IPOより簡便な株式公開手段として普及した「SPAC」

特別目的買収会社(SPAC)は新しい現象ではありません。少なくとも過去20年間は存在していましたが、昨年、従来の新規株式公開(IPO)に必要な書類を必要とせずに企業が株式を公開する方法として本格的に普及しました。投資を求める資本のプールが手配されると、企業はスポンサーとディールチームの支援を受けて単独で取引を行い、2年以内にターゲットを見つけて合併することができます。

 

2020年のSPACの調達額は750億ドルを超え※1、過去10年間の合計額の約2倍となりました。タイムラインの短縮、価格リスクの低減、経験豊富な経営陣との協働の機会が得られることから、多くの新興企業にとって有力なイグジット選択肢となっています。

 

※1 Datesite "Invest in Insight: Private Equity Market Brief on Exits" FEBRUARY 08, 2021.

 

SPACの成功は、企業をより迅速に成長軌道に乗せるための資本市場へのアクセスについての考え方を根本的に変えました。APACのディールメーカーの中にもSPACを検討する企業が増えてきています。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

急速に高まる、アジア太平洋地域への関心

2020年のSPACのレシピは、有名人が支援するブランク・チェック組織と、資本が豊富な強気の市場、成長リターンに飢えた個人投資家とを混ぜ合わせたものでした。かつてはニッチだったこの分野は2020年には主流となり、世界で256件のSPACが上場して※2総額835億米ドルを調達しました。

 

※2 THE WALL STREET JOURNAL "The SPAC Boom, Visua" FEBRUARY 10, 2021.

 

これは2019年の73件、155億米ドルと比較すると大幅な増加です。しかし、2021年の第1四半期は、すでにこの数字を超えています。第1四半期だけで304件のSPACが上場し※3、総額900億米ドルを調達しました。この中には、米国で申請されたアジア拠点のSPACが15件含まれていますが※4、2020年全体では18件でした。

 

※3 S&P Global "Q1 2021 Global Capital Markets Activity: SPAC IPOs, Issuance in Consumer Discretionary Sector Surge" MAY 3, 2021.

 

※4 Datasite "Expert Spotlight: Greater China Deal Momentum" APRIL 26, 2021.

 

2020年の24.6億米ドルに対し、2021年第1四半期にはアジアで26.7億米ドル相当のSPAC取引が行われています※5。4月上旬※6、東南アジアのライドヘイリングとフードデリバリーのユニコーン企業であるGrab Holdingsは「米国上場のSPACとの合併により約396億米ドルの価値を持つ企業として上場する」と発表し、SPACによる合併としては過去最大規模となりました。

 

※5 REUTERS "Japan should consider whether to allow listings through SPACs, govt panel says" MARCH 17, 2021.

 

※6 THE WALL STREET JOURNAL "Grab’s Huge SPAC Merger Heralds Asia’s Next Tech Boom" May 7, 2021.

 

シンガポール証券取引所は3月、SPACがメインボードに上場するための規制枠組み案について市場からのフィードバックを求めるようになりました※7。SPACに内在するリスクを軽減するため、規制当局を通じて今年半ばまでにセーフガードを導入する可能性があります。

 

※7 CNA "Singapore Exchange may allow listing of SPACs but with restrictions" MARCH 31, 2021.

 

5月には、香港の財務長官が現地の証券当局と証券取引所の運営者にSPACが香港で資金調達できるように規則を改正する可能性を検討するよう指示した※8と報じられました。

 

※8 The South China Morning Post "Has Asia missed the blank-cheque boat? The SPACs frenzy is cooling before Hong Kong, Singapore even get off the starting blocks" MAY 8, 2021.

 

また、日本の成長戦略会議はSPACによる取引所への上場を検討するよう提言していますが、東京証券取引所の山道裕己社長は5月、投資家保護の観点からSPACの上場について「最近の市場環境を踏まえ、真剣に検討すべき」と述べています※9

 

※9 NIKKEI Asia "New Tokyo Stock Exchange chief all in for ESG but wary of SPAC boom"APRIL 9, 2021.

 

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