ですが、実際に日本で企業が立ち上がる前に資金を出すのは、身内に近い関係者がほとんどです。つまりIT企業などで優秀な若手が独立するときに、経営陣やその関係者が「お前が独立するなら俺たちが資金を出そう」ということで出資する事例です。
身内に近い関係者であれば、起業しようとするのがどの程度できる人物か、どんな事業をやろうとしているかはよく分かっていますし、成功すればグループ会社に加え、失敗しそうになったら自社に取り込んで経営を立て直すこともできます。まったく見ず知らず同士の創業者と投資家が出会って面談と交渉を重ね、出資するか否かを決める投資とは事情が違います。
米国では10年ほど前から、この段階で資金を投じるインキュベーター(保育器を意味する語)と呼ばれる投資家がいて、数万ドルから数十万ドル程度の資金を出すケースがあります。しかし、日本にはまだこの段階から創業者が資金調達できるエコシステムはほとんどありません。
私も含めて職業としてエンジェル投資をやっている人たちは、あくまで「これは成功する確率が高い」と見込むからこそお金を出すのです。見ず知らずの若者の挑戦を見たいためでも、ギャンブルに興じたいがためでもありません。
ですから、エンジェル投資家から出資を受けようとする創業者はぜひ「ここで自分たちに出資してもらえたらこんなことが実現できる」という事業計画を見せてください。実現への道筋が見えて投資妙味があると感じたら、具体的な交渉に入れます。そのためには、せめてプロトタイプ(試作品)やベータ版(試作バージョン)はあった方がいいでしょう。
創業期はアイデアよりも「人」が成否を左右する
また経験上、創業期はビジネスアイデアよりも"人"が成否を左右する要素が大きいと感じます。投資する相手が困難を乗り越えてやり遂げる力があるか、自分たちと二人三脚でやっていける相手かを私たちは重視します。
冒頭に自己資金は《500万円》程度は用意すべきと書きましたが、私たちは自己資金で足切りするわけではありません。一生懸命お金を集めたが《300万円》が精一杯だったというなら、それはそれで構わないのです。
しかし「自分では1円も集められなかった」という人にそもそもお金を生み出す力があるとは思えませんし、「お金はあるが身銭は切らない」という人が本気で事業に情熱を注ぐとも思えません。
投資家はまだ海のものとも山のものともつかない事業に資金を出すわけですから、大きなリスクを負っています。失敗すれば投資資金は回収できず、水泡に帰してしまいます。投資家が資金を失うことは将来の可能性をも失うことです。それだけに投資先の選定には慎重になりますし、創業者の本気を見せてもらわなければ資金を出すことはできません。
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