コロナ禍からいち早く抜け出し、株はもとより不動産市場も好調なアメリカ。チャンスを狙う日本の投資家の購入例も増加しています。しかし、アメリカ不動産を購入するにあたり、決して忘れてはならない事項がひとつあります。それは、「万一の際の相続手続き」の問題です。国際法務に精通する、中村法律事務所の中村優紀代表弁護士が解説します。

アメリカの遺産分割の手順には「裁判所」が関与する

さて、アメリカの不動産購入に、アメリカの相続法(州法)の適用がされることはわかりました。では、アメリカの相続法はどのような法制度になっているのでしょうか。日本とどこが違うのでしょうか。

 

結論からいうと、アメリカの場合、多くの州で、相続人間で遺産分割をするには裁判所に申し立てをする法制度になっており、この点で日本と大きな違いがあります。

 

日本では、相続が発生した場合、遺産分割は相続人間の話し合いで行われます。日本での相続のステップは、①遺産の確定(プラス、マイナス)、②法定相続人の確定(相続放棄)、③遺言の有無、④遺産分割協議、というのが一般的です。

 

相続人間で争いがなければ、これらのステップに裁判所の関与はありません(自筆証書遺言の検認手続きは除く)。このような裁判を経ずに、プラス、マイナスの遺産全てが相続人に承継される日本の制度を、包括承継主義といいます。

 

一方、アメリカでは、裁判所に申し立てをして、裁判所の監督の下で遺産分割が進められます。裁判において管理・清算をしたうえで、プラスの遺産のみが相続人に分配される、このアメリカの制度を管理清算主義といいます。そして、分配のための申立手続きをプロベート(Probate)といいます。

 

プロベートは、誤解を恐れずにいえば、日本の破産手続きと類似しています。すなわち、申立がされるとまず、裁判所は遺産を管理する人格代表者(Personal Representative、略してPR)を選任します。

 

そして、PRは、遺言の有無、相続人の確定、紛争の有無だけではなく、遺産の種類、金額、負債の有無についても調査を行います。そして、遺産から負債、費用が支払われ、遺産税を納めて、残額が初めて相続人に分配されることになります。

 

プロベートの概要をさらっと説明してしまいましたが、このプロベートには費用、時間等の点で多くのデメリットがあります。そのため、アメリカ不動産を購入されるクライアントには、日頃から筆者より注意喚起をさせて頂いております。

 

ちなみに、ウェブサイト上で、プロベートを「遺言検認」と翻訳しているのを見かけますが、プロベートは、遺言(Will)に関するものだけではなく、遺産(Estate)の分配全体に関わる裁判手続です。よって、プロベートは、日本語で「遺産検証」というのが正しい翻訳になりますのでご注意ください。

 

 

中村 優紀

中村法律事務所 代表弁護士

ニューヨーク州弁護士

 

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