消費者目線に立ったものづくりを継続する「あの企業」
お客さまとの接点を大事にし、消費者視点でものづくりをしている企業と聞いて筆者が真っ先に思い浮かべるのは、家電製品や生活用品を手掛ける企業・アイリスオーヤマです。
同社の創業者で現在は代表取締役会長を務める大山健太郎さんは、19歳のとき、家業のプラスチックの町工場を継ぎました。その後、ガラス製だった養殖用の浮き球をプラスチックに変え販売したことで大きな利益を得ましたが、1973年のオイルショックでは倒産の危機に直面したそうです。そこから新たな販路開拓に努力し、家庭向け商品に参入、大成功を遂げられました。
同社が生活用品の分野に参入した最初の商品は、プラスチック製のプランターです。当時の市場には素焼きの植木鉢しかありませんでした。しかし大山さんは、庭で花を育てている奥さんを見て「この鉢が安価なプラスチック製だったら、もっと多くの人がガーデニングを楽しめるのに」とひらめいたそうです。そこで商品化し売り込もうとしたところ、大手の商社が売り場を牛耳っている事実に直面します。仕方なく、直接ホームセンターの一店一店に売り込んで、爆発的なヒットにつなげたそうです。
また、アイリスオーヤマの定番商品であるクリアケースも、大山さんが趣味の釣りに出かけるとき、しまわれていた冬物衣類をなかなか探せなかったことがきっかけだったそうです。「引き出しが透明だったら、服が簡単に見つけられるのに」という思いが、ものづくりの出発点だったわけです。そして同社は2008年、宮城県のホームセンターであるダイシンをグループに加えました。小売に乗り出し、メーカーベンダーとなるのが目的だったのです。
アイリスオーヤマはいまも、消費者目線に立ったものづくりを行っています。最近のヒット商品は、室外機のないエアコン。排熱用のダクトを窓に取り付ける方式で、「エアコンを短期間で設置したい」「工事ができない部屋にも導入したい」というコロナ禍での消費者ニーズを見事にとらえ、大きく売上を伸ばし続けています。
アイリスオーヤマのやり方は、メーカーベンダーを目指す中小企業にとって大いに参考になると思います。筆者自身も、大山さんが代表発起人を務める「東北未来創造イニシアティブ」(東日本大震災被災地の企業を支援するために設立された社団法人)の人材育成道場「経営未来塾」でお世話になりましたから、大山さんから何度も直にお話をうかがいました。心の支えであり、商売のお父さんのような存在です。
試作品モニター募集のメリットとデメリット
満点スリップがまだ売れていなかった時期から、筆者はいろいろな人に試作品を無償提供し、意見を聞かせてもらっていました。最初は、お得意さまや知り合いのお茶の先生など、きものを着る機会の多い地元の知人にモニターをお願いしていました。それしか手段がなかったからですが、ネット販売を始めてからは一般のお客さまから何度かモニターを募集したこともありました。ブログやメールマガジン、自社ホームページなどを使って公募するのです。無償で商品や試作品を提供する代わりに、その商品についてのご意見をいただくというスタイルでした。でも現在はその方法を中断しています。
遠慮のない意見がたくさん集まる点は、公募の長所ですが、一般のユーザーが考える最高の商品は「私にいちばん合うもの」で、既製品として売り出すという視点では考えていないことが分かりました。モニターに応募する方のなかには、きものに対する独自のこだわりをもっている方もいらっしゃるはずです。いや、むしろそういう方のほうが多いでしょう。そうなると、商品コンセプトが特殊な方向にぶれてしまう危うさがあります。筆者はその事実を、何度かの経験で学びました。むしろブログなどにコメントを付けてくださる方のご意見を、こちらの意図に照らし合わせ読み集めるほうが得策だと思います。
また、商品に対するレビュー投稿は非常に参考になります。筆者はいまでも一件残らず必ず読んでいます。わざわざ書き込みをしてくれるのは、きものと「たかはし」の商品への熱い情熱をおもちの方ばかり、たくさん参考にさせていただきました。
コアな愛好者は「この商品じゃなきゃダメ」と思ってくださっている方で、この方々の意見は特に重視しています。
髙橋 和江
有限会社たかはし代表
和装肌着製造メーカー「たかはしきもの工房」代表
きものナビゲーター
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