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中央銀行デジタル通貨:FRBは今年の夏に見解をまとめた調査レポートを公表予定
米国などで消費者のデジタル決済の利用が拡大し、また各国政府が独自のデジタル通貨の開発を押し進める中、米連邦準備制度理事会(FRB)のブレイナード理事は2021年5月24日、FRBはデジタル通貨デジタルドルの開発に向け調査などの取り組みを強化していると講演で述べました。
なお、FRBのパウエル議長は、20日にデジタル通貨に関する金融当局の見解をまとめた調査レポートを今年の夏に公表し、広く意見を募る考えを明らかにしました。
どこに注目すべきか:中央銀行デジタル通貨、暗号資産、基軸通貨
米国は中央銀行デジタル通貨(CBDC)に対し、相対的に慎重姿勢でした。パウエル議長の発表は、夏のレポートが、CBDCへの取り組み方法について決定を下す前に、参考意見を集めると位置づけています。導入の決定はまだまだ先の話で、そもそも導入するかすら、明確ではありません。ただ、CBDCに対する認識は変わりつつあるようです。
パウエル議長の20日のコメントは今夏のレポート公表を予告する内容でした。FRBの中でCBDCをカバーしているブレイナード理事の講演を参考にFRBのCBDCに対する考え方やポイントを述べます。
FRBはデジタル通貨に対しどちらかというとこれまでは傍観する姿勢でしたが、このままでは立場が揺らぎかねないと懸念を強めている印象です。ブレイナード理事はCBDCについて米国は不正防止や基準作りで国際協力を求めるとの考えを示しました。中国デジタル人民元の実用化などを念頭に、外国政府が発行するデジタル通貨の影響力が拡大することへの懸念を表明しています。
また、基軸通貨であるドルは海外決済で独占的な地位を占め、例えば決済ネットワークを通じテロ資金源などの特定を武器としていました。今後も、ドルの地位を確保したい姿勢がうかがえます。
次に、ブレイナード理事は数多くの暗号資産が通貨代替となる事態を念頭に、マネーの新たな形態が消費者の保護や決済リスクを脅かす可能性を指摘しています。例えば、今から200年ほど前、米国はフリーバンキングの時代で、自由に銀行券を発行できました。しかし信用低下など様々な理由で銀行の多くが倒産したと指摘しています。ビットコインなど暗号資産を決済に使う可能性が模索されてはいますが、金融システム安定の観点から、傍観したままではいられないようです。
なお、新型コロナウイルスがデジタル通貨のプラス面を再確認させた面もあるようです。米国ではコロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)などを通じて個人に資金供与しましたが、銀行口座が無い人へのアクセスは困難でした。CBDCなどがこの点を改善することに期待を示しています。なお、イエレン財務長官もこの点に好意的で、従来の財務省のCBDCへの消極姿勢に変化が見られます。
新型コロナに関して別のテーマとして、非接触決済としてデジタル決済が注目されました。ただ、仮に将来デジタルドルが導入されたとしても、現金との併用は当面続きそうです。ブレイナード理事はパンデミックにおいて個人の手持ちの現金残高が増えたことを指摘しています(図表参照)。
先のCARES法などで市中の通貨流通高が増える中、接触を嫌って全ての現金を別の形態で所有するわけでなく、個人はポケットのお金もそれなりに増やしていたということを講演資料で指摘しています。勿論、対面決済の一部はデジタル決済に移したとの結果も示されていますが、現金を手元に残したい気持ちもあるようです。ブレイナード理事は安全で、信頼された決済手段である現金を求める声がある限り、提供を続けることが金融当局の義務との考えを述べています。その通りだと思います。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米国、今夏に中央銀行デジタル通貨に関するレポートを公表』を参照)。
(2021年5月27日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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