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菅首相の政権運営:黄色の信号が点灯した状態
小渕恵三内閣以降ののべ10人の首相の内閣支持率をNHKの世論調査で追うと、政権発足から8ヵ月目の平均は37.3%だった(図表1)。菅内閣の5月の支持率は35%なので、平均から大きく乖離しているわけではない。
もっとも、この10人の内閣総理大臣のうち、5年以上の長期政権を維持した小泉純一郎首相、2回目の安倍晋三首相の両内閣は、この時期の支持率が69.0%だった。一方、残りの8人は1年半持たずに退陣に追い込まれたが、8ヵ月目の平均は29.4%だ。少なくともこれまでのところ、菅内閣は短命政権の軌道に近いコースを歩んでいる。
また、与党内で首相(党首)の指導力を示すのが「首相プレミアム」だ。内閣支持率は即ち首相個人の支持率と言っても過言ではないだろう。つまり、内閣支持率から自民党の支持率を引いて求められる首相プレミアムは、「選挙の顔」としての首相の力を示す数字に他ならない。
NHKによる5月の世論調査では、菅首相の首相プレミアムは1.3ポイントに過ぎなかった(図表2)。つまり、自民党の支持層以外、菅内閣を支持する有権者は極めて少ないわけだ。
第2次安倍政権では、首相プレミアムは平均10.9ポイントと高水準である。過去の例では、安倍前首相を含め、首相プレミアムがマイナスになると、政権は末期的な状況に追い込まれた。菅首相にとっては、黄色の信号が点灯した状態と言っても過言ではないだろう。
総選挙:政権交代の可能性は極めて低いが…
与党にとっての救いは、野党の支持率にも大きな改善が見られないことだ。NHKの調査によると、野党第1党の立憲民主党の支持率は5.8%に留まり、33.7%に達する自民党との差は依然として大きい。衆議院の任期満了まで5ヵ月となるなか、政権交代の可能性が高い状態であれば、危機感により与党内から菅首相への批判が強まっているだろう。
ただし、野党側による選挙協力によっては、自民党が総選挙で大きく議席を減らす可能性は否定できない。例えば、2017年の総選挙の結果を基にシュミレーションすると、立憲民主党、国民民主党、共産党、社民党の4党が個別に総選挙に臨む場合、自民党の獲得議席は275議席程度になり、単独過半数(233議席)を大きく上回た。一方、4党が小選挙区で統一候補を擁立すれば、自民党が230議席を割る可能性が台頭する。公明党との連立で政権は維持できるが、50議席以上の減少で菅首相は責任を問われよう。
菅首相には何等かのテコ入れ策が必要だ。特にワクチン接種のスピードが鍵を握るのではないか。また、7月4日の東京都議会議員選挙は、総選挙の前哨戦として注目される。
もっとも、市場の立場から見た場合、菅政権の政策に対し期待が盛り上がるシナリオは想像し難い。難易度の低い施策は第2次安倍政権下で出尽くしており、残されているのは、強い政治力を必要とする構造改革策だけだからだ。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『菅政権の安定度』を参照)。
(2021年5月21日)
市川 眞一
ピクテ投信投資顧問株式会社 シニアフェロー
日本経済の行方、米国株式市場、新NISA、オルタナティブ投資…
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