(※写真はイメージです/PIXTA)

アパマン経営は、常に「社会的な流れ」に大きな影響を受けています。近年においては、売り上げの減少だけにとどまらず、入居者による家賃滞納も非常に深刻な問題です。これらを乗り越え、確実な収益を獲得するには、どんな対応を取るべきでしょうか。業界を取り巻く厳しい現況を、不動産のプロが明快に解説します。

「督促規制法案」の廃案でオーナーは救われた

民主党政権時代の平成22年、賃貸業界を震撼させた「督促規制法案」なる法案が成立しかけました。本法案の骨子は、「家賃滞納に対する督促のやり方に規制を設け、制限する」というものです。結果的に事実上の廃案となりましたが、この法案が成立をしていたら、まともに賃貸経営などできなくなってしまうというほど大きな影響を持つ法案でした。

 

以下は法案の要旨です。実際の法案はもっと長いのですが、ポイントだけを書くとこのようになります。

 

【要旨】

家賃保証会社および滞納者検索データベース運営会社に対する登録制度を設け、行政(国土交通省)の監督下に置く。

家賃を支払わない賃借人(家賃滞納者)に対しての管理会社、家賃保証会社、家主による督促に対する規制を明記。違反した場合の罰則を設けている。

悪徳な追い出し(業者)を排除し、入居者(賃借人)の安定的な住環境を整備することを目的とする。

 

一見するともっともらしいのですが、次の条項が本法案最大の問題点でした。

 

●家主、管理会社、家賃保証会社は、賃借人から家賃を回収するにあたって、手紙、電話、訪問等いかなる手段をもってしても威迫してはならない(第61条)。

●第61条に違反した場合、懲役2年以下もしくは300万円以下の罰金に処する(第73条)。

 

つまり滞納者に対して督促をし、その督促の仕方が入居者に脅威を与えると捉えられれば、管理会社、保証会社、さらにはオーナーさんまで処分されるという内容です。そして、その処分の内容は刑事罰であり、懲役刑となってしまうこともあるのです。

 

どのような行為が「威迫」に当たるかという定義は法案にありませんでした。それだけに、入居者の受け取り方次第で、多くの行為が「威迫」になってしまいかねない、非常に大きな問題をはらんでいるものでした。

 

しかし法案が成立してしまえば従わざるを得ません。事実上滞納に対する督促ができなくなるのではないか、というのが当時の賃貸業界の見方でした。

 

諸外国と比べわが国では、借地借家法や消費者契約法の存在により、賃借人(入居者)は過度に保護されていて、滞納も頻繁に起こります。さらにその度合いを強めた決定的な法案が成立するというのはオーナーさんにとっては脅威であり、消費者保護の行き過ぎであると言わざるを得ません。

 

悪質な滞納は、ある意味で「泥棒」と一緒です。泥棒に入られた店主(オーナー)もしくは店員(管理会社、保証会社)が泥棒を捕まえようとしたら、泥棒から「脅された(威迫された)」と通報され、泥棒ではなく、泥棒を捕まえようとした側(オーナー、管理会社、保証会社)が逮捕され懲役になってしまう――。「督促規制法案」とはそういう事態を現実化させる、笑うに笑えない法案だったのです。

 

このような法案が国会で真面目に審議され、成立の一歩手前のところまでいきました。幸いにして同法案は最終的に事実上廃案となりましたが、オーナーさんたちは戦々恐々でした。非常にシリアスな問題だったのです。

 

損害をこうむるのはオーナーさんたちだけではありません。賃貸業そのものが成り立たなくなれば、関連する様々なビジネスが成り立たなくなります。賃貸業は日本の産業のなかでも基幹産業であり、経済全体に与える影響が大きいのは自明です。

 

何はともあれ、このような無謀な法案が成立しなかったことは賃貸業界、さらには日本全体にとっても幸いなことだったと言えるでしょう。

 

 

大谷 義武

武蔵コーポレーション株式会社 代表取締役

 

 

太田 大作

武蔵コーポレーション株式会社 専務取締役

 

 

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※本記事は、『空室率40%時代を生き抜く!「利益最大化」を実現するアパート経営の方程式』(幻冬舎MC)より抜粋・再編集したものです。

[増補改訂版]空室率40%時代を生き抜く!「利益最大化」を実現するアパート経営の方程式

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大谷 義武,太田 大作

幻冬舎メディアコンサルティング

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