繰下げ受給より繰上げ受給のほうが多い実態
年金の繰上げ受給はどれだけ損?
繰下げ受給とは反対に、65歳になる前から年金を受け取ることもできます。これを繰上げ受給といい、60歳から受け取りが可能です。繰上げ受給も、基礎年金と厚生年金のどちらか一方、または両方が選べます。
ただし、1か月あたり0.5%が減額されます。60歳で受給を開始すると、最大30%の減額になります。
金額が減るとはいっても、繰下げ受給より繰上げ受給を選択するケースのほうが多いのが実状です。
厚生労働省の「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、繰上げ受給をしている人が29.5%であるのに対して、繰下げ受給をしている人はわずか1.6%にすぎません。
「社会保障審議会」の平成23年の資料に、老齢基礎年金の繰上げ受給に関するアンケートがありました。繰上げ受給をしようと思った理由のトップは、「長生きできると思っていないから」で49.2%。ついで、「早く生活費の足しにしたいから」が25.9%。「自分で自由に使える小遣いがほしいから」が11.8%となっています。
たしかに、早めにもらうと最初は得をします。では、損益分岐点はどこにあるかといえば、76歳0か月です。これ以上生きると、今度は損をします。
平均寿命は、男性が81.09歳、女性が87.26 歳です。
男性の半数以上は、損益分岐点より5年も長く生き続けています。それに、4人に1人は90歳まで生きているのです。
女性はさらに長く、10年以上生き続ける計算になります。繰上げ受給を選択すると損になる可能性が高いでしょう。
人の寿命はわかりませんが、医学の進歩によって、いっそう長寿化することは間違いありません。長生きのリスクも考慮したほうがいいと思います。
繰上げ受給には、ほかにも注意点があります。
まず、障害基礎年金を請求することができません。また、寡婦年金もなくなってしまいます。
65歳までの生活資金が足りないというのであれば別ですが、生活に困らないのなら繰上げ受給をする必要はどこにもありません。むしろ、長生きリスクのほうに目を向けてください。
長尾 義弘
ファイナンシャルプランナー
AFP
日本年金学会会員