老後生活で不健康になる理由は「孤独」
■人は孤独だと“長生き”できない
長い老後生活を元気で楽しく過ごすには、なにが最も大切なのでしょうか。その答えはハーバード大学の「成人発達研究」の中にあります。
これは1938年に始まり、現在まで続いている史上最長の研究です。資金が続かなかったり、担当者がいなくなったりして10年程度で終わる研究が多い中にあって、異例の長さです。
研究では、男性を2つのグループに分けました。1つがハーバード大学の2年生、もう1つはボストンで貧困生活をしている子どもです。彼らに健康診断やインタビューをし、その後の追跡調査をおこなっています。
スタート当時743人いた被験者は、90歳代になったいまも約60人が健在です(2015年時点)。追跡調査はなおも続行中で、2000人以上にのぼる彼らの子どもたちも被験者として追加されています。
ハーバード成人発達研究の現在の所長は、4代目のロバート・ウォールディンガーです。
ウォールディンガーは、健康で幸福な人生を送るのに必要なものは、「富」「名声」「がむしゃらに働くこと」ではなく、「よい人間関係」であると結論づけています。
逆に、最も幸せではなく不健康になる理由は、「孤独」だと述べています。
周囲とのコミュニケーションがうまく取れない人は、孤独を甘んじて受け入れ、すこしも幸せとはいえない生活を送ることになります。中年以降は健康の衰えが早くなり、脳の機能障害も起こりやすくなるというデータが出ています。
よい人間関係は健康だけでなく、脳の機能まで守ってくれるわけです。
家族や友人と良好な関係を保ちたいものですが、パートナーも重要です。たとえパートナーがいたとしても、2人の間に信頼という絆がないと孤独を感じてしまいます。
夫婦が信頼し合い「頼れる人がいる」人ほど記憶がハッキリし、「まったく頼れない」と思っている人には、早期に障害が現れるそうです。
夫婦はもとより、いろいろな人とじかに会って、信頼関係を築くことが老後生活では重要になってきます。フェイスブックなどのSNSで1000人の友人がいて、いくつもの「いいね」をもらっても、孤独を感じることがあるのではないでしょうか。
人間関係は一朝一夕では築けません。地道な努力と手順をふみ、時間がかかるときもあります。しかし、そういった努力を怠ると、幸せな老後が遠ざかってしまうのです。
ウォールディンガーは、よい人間関係をつくれる人には共通点があるといいます。
それは「柔軟性」をもつこと。
なんでも自分の思いどおりに進めようとすれば、トラブルも生じやすくなります。他者の人格を認め、話を聞ける人は、人間関係も円滑になるのです。