退去させるのか、させないのか…妹尾さんの決断は?
私に慣れたのか遠くから様子を窺っていたキジ猫は、隣に座る眞知子さんにぴったり寄り添うようにスリスリしています。眞知子さんは、愛おしそうにキジ猫の頭を撫でていました。きっと、コロナ騒ぎで外に出にくい時期も、ずっと寄り添ってきたのでしょう。眞知子さんの心の支えになっているなら、眞知子さんの認知症予防にもなるかもしれません。
この姿を見てしまった今、とてもじゃありませんが、キジ猫を手放してくださいだなんて私には言えませんでした。猫を大切そうに抱っこしながら、眞知子さんに「家主さんに交渉してみてください」と見送られました。
ペット不可の建物で、飼うことを許してしまうと、他の入居者にも広がってしまうリスクもあります。一方でペット可の物件にすると、ペットを飼える賃貸物件が少ないことから、入居者に長期にお住まいいただけるというメリットもあります。
眞知子さんの場合、ひとりで生活できる間は、きっと、この部屋で過ごしてくれることでしょう。お金の問題もありません。この新型コロナウイルスという未曾有の状況下、ひとりで力強く生きてこられた眞知子さんにとっては、保護猫がいなかったらとても辛いものになっていたはずです。
「仕方ないか。退去されてしまえば、駅から遠い古いアパート、新しい入居者の確保も難しいだろう。長年信頼のある眞知子さんだから、猫も迎え入れるか」
妹尾さんの決断は、家主としての収支計算もあったかもしれません。ただ長年お住まいいただいている眞知子さんに対し、このコロナ禍に心の支えができたことを応援したいという気持ちも込められていたと思います。
新型コロナウイルスは、生物ではなく、正体の分からぬウイルスです。その不気味な存在が人々の働き方を変え、さらにはさまざまなストレスを今なお与え続けています。そして安心できる住まいから、音やゴミ、さらにタバコの問題をあぶりだしました。
一方で新型コロナウイルスがきっかけで、自身の事業承継を具体的に考えだしたり、新しいビジネスの創出といった前向きな動きも出てきました。人との繫がり、心の支えもクローズアップされてきています。
絶対的な安心のある場所であるはずの「住まい」。新型コロナウイルスは今後、その「住まい」に対してもどのような影響を与えていくのでしょうか。
※本記事で紹介されている事例はすべて、個人が特定されないよう変更を加えており、名前は仮名となっています。
太田垣 章子
OAG司法書士法人代表 司法書士
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