デジタル民主主義の最大の課題とは
これに対してPO(パーティシペーション・オフィサー/開放政府連絡人)は、行政院ではなく外交部や財政部などの各部会、もしくはそれぞれの部会の下部機関に設けられています。POは行政院所属の各機関と独立機関からの出向者で編成されていて、政府の活動を国民に知らせるスポークスマンのような役割を担っています。
したがって、POには自らの所属する機関の業務を熟知し、対外的にわかりやすい言葉で説明できる能力が求められます。同時に、一般市民の意見を傾聴して内部に伝え、必要に応じて会議を開かなくてはなりません。またPO同士の間でも定例会議が開かれていて、各機関を横断する議題について話し合います。
彼らの主な役割は、自分たちの部会の中で「傾聴」を推進していくことです。その点でPOの仕事はPDISと似ていますが、ちょうど数学でいうフラクタル図形のように、相似形だけれど規模は比較的小さく、相互にリンクしているような関係になっています。
私がPOに求めるのは、透明性を持った仕事をすることだけです。私は彼らに命令をしませんし、彼らも私に命令することはできません。また、彼らの功績や仕事の成果は自分で決めることで、私が決めることではありません。POの間には階級の差はなく、一人ひとりが異なる専門性を持つプロとして平等に扱われます。
これはPDIS内の公務員も同じです。彼らは自分たちで自分の価値感を守り抜かなくてはいけません。ここに属しているからといって、私の価値感に染まってしまっては意味がありません。彼らには、自ら考えて行動し、公益の実現のために働くことが求められています。
デジタル民主主義には、「小さな声にも耳を傾け、社会をより良い方向に変革し、民主主義を前進させていくことができる」というメリットがあります。しかし、もちろんいいことばかりではなく、デメリットもあります。
デメリットは大きく二つに分けられます。
一つ目は「インクルージョン」に関わることです。国民全体を巻き込むインクルージョンが達成できないと、デジタルツールにアクセスできる人、もしくはデジタル接続ができる人しか民主主義に参加できなくなる恐れがあります。すると、それ以外の人は、自分が除外されたところですべてが決められているような感覚を抱くでしょう。これは大きな問題です。
もう一つは「説明責任」に関わることです。説明責任とは、ひとことでいえば、「責任者が明快な答えを出す」ということです。デジタル民主主義では、ある程度の演繹法を使って問題の答えを導き出していきます。
しかし、それによって答えを見出せない場合もあります。そのときは、国民の声を聞いた上で、AIに最善の方法を求めるのが最も簡単な方法です。ただ、AIが出した方法が国民に理解してもらえないときにどうすればいいか。そこで政府が説明責任を果たさず、強引に問題解決を図ろうとしたら、それは独裁国家と変わりません。
以上のように、「インクルージョンが十分に実現できているかどうか」「説明責任が十分になされる状態にあるかどうか」の二つが、デジタル民主主義における最大の課題です。
オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)
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