今回は、令和3年度税制改正による押印廃止と、「争族」での押印の重要性について、岡野雄志税理士が相続トラブル事例について解説していきます。※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

「ヤングケアラー」って何だ?

Nさんの姉が離婚して実家に戻ってきたころ、甥は荒れて登校拒否になったこともあります。しかし、けっして勉強が苦手だったわけではなく、スポーツも得意だったので、中学に進学してからはクラブ活動に夢中になり、順調に通学するようになりました。

 

ところが、そんな矢先、母親であるNさんの姉が発病して倒れました。そのころはまだ祖母も元気でしたから、ふたりして看病や畑仕事をしていたようです。やがて母親が息を引き取り、彼が高校へ入学したのち、今度は祖母が倒れ、介護が必要となってしまいました。

 

甥は祖母の世話、家事、畑仕事を一身に引き受ける「ヤングケアラー」となってしまったのです。もちろん、Nさんや叔父である兄も、ときどき手伝いに実家を訪れましたが、遠方に住んでいるため、毎日というわけにはいきません。ついに彼は高校を中退してしまいました。

 

ヤングケアラー・・・介護、家事、家族の世話などのケア責任を負う18歳未満の未成年者のことです。総務省の調査では、中学生の約17人に1人が「ヤングケアラー」だということがわかり、社会問題化しています。

 

そのとき、甥を援助してやれなかった後悔は、Nさんの心の片隅に影を落としています。兄だってそのはずです。法定通り相続分割するため実家や田畑を売却すれば、甥は家も職も失います。高校を中退し、就職経験もない甥が、はたして暮らしてしていけるでしょうか?

 

これまで兄と自分は、実家と田畑を売って現金化し、遺産分割することばかり考えていたけれど、もっと他の方法もあるのではないか。兄と自分が相続放棄することなく、しかも、甥が本気で農業をやるなら、それを支援できるような方法が。Nさんは考えを変えました。

 

土地や家屋などの不動産といった、そのままでは分割しにくい財産を分割相続するには、以下の4つの方法があります。

 

◎遺産を売却して現金化し分配する「換価分割」

◎現物を相続した人が別の財産で他の相続人にその代償を支払う「代償分割」

◎財産を複数の相続人による共有名義にして所有する「共有分割」

◎自宅家屋、土地、田畑というようにそれぞれを各相続人が相続する「現物分割」

 

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