美容クリニックでは、複数回のまとまったコースとして施術を契約することがあります。その場合、途中で効果に疑念が生じても中途解約できないケースが多数です。こうした美容医療トラブルによる訴訟の事例や、施術前のアドバイス、なにかあってからの「医療ADR」など、知っておきたい情報について解説します。※本連載は、三輪記子氏の著書『これだけは知っておきたい男女トラブル解消法』(海竜社)より一部を抜粋・再編集したものです。

初回で後悔…「あと4回分の施術費用」を取り戻したい

【相談内容】

20代前半の会社員です。肌荒れや乾燥などに悩んでいた私は、先日、美容クリニックに相談しに行き、水光注射の施術を受けました。

 

担当医の話では「2〜3日後、皮膚がボコボコしたり、赤みが出たり、乾燥しやすくなるが、通常、1週間でおさまる」とのことでした。

 

私の場合、目の周りに出やすいと言われている内出血があり、5日くらいで引いたのは良かったのですが、少し怖くなってしまったこと、私には効果がないように思えたことで、クリニックに「やめたい」と申し出ました。施術を受けたのは1回です。総額18万円の5回コースを契約しています。クリニックは「効果は続けないと実感できない。やめてもローンの支払い義務がある」と言いますが、もう注射はしたくないです。残り4回分の費用を取り戻すことはできますか?

中途解約できなければ「医療ADR」がオススメ

ご相談の件については、契約書を拝見しないと明確な回答はできないのですが、おそらく中途解約はできない契約になっているのではないでしょうか。

 

しかし、クリニックと交渉し、「合意解約」できればお金が返ってくる可能性があります。

 

(画像はイメージです/PIXTA)
(画像はイメージです/PIXTA)

 

私自身、「きれいになりたい…」、もっと率直に言って「できるだけきれいになりたいな」「しかも楽チンな方法で」と思っています。共感してくださる方も多いのではないでしょうか。

 

ただ、私は痛いのは基本的に嫌ですし、後戻りできない怖さや経済的なプライオリティの問題から、なかなか美容医療に踏み込む勇気は持てておりません。

 

私が実際に受けた施術はホクロ取り、ニードリング、水光注射、ピーリングあたりです。こういった施術を受ける際に、「単発で契約できるかどうか」も決断のポイントにしています。今回のご相談者さんのような状況になる可能性を恐れてのことです。

 

また、金額が数万円から数十万円など比較的低額な施術の場合ですと、裁判を起こすと費用倒れになる可能性があります。

 

そういった場合に私がおすすめしているのは医療ADR※1です。

 

「ADR」とは裁判外紛争解決手続といって、裁判所ではなく民間の機関(例えば弁護士会)が紛争解決機関として当事者間の紛争解決を第三者的立場から導く手続きのことをいいます。東京では医療に特化したADRがあります。

 

この手続きですと、弁護士に依頼せずご自身で対応できる場合もありますのでおすすめです。

 

※1 詳しくは日本弁護士連合会のホームページまで。

https://www.nichibenren.or.jp/activity/resolution/adr/medical_adr.html

 

裁判沙汰も…「美容医療はトラブルが多い」という現実

個人的なことではありますが、私が受けた施術では今のところトラブルが発生したことはありません。しかし、美容医療はトラブルが多いのも事実です。古くは「乳首がなくなった!」というニュース※2もありましたね。

 

他には、美容医療によって裁判になった事例もあります。

 

例えば、フィラー施術の裁判例としては、原告が目の下のしわの改善のために受けた施術により目の下の部分に膨ふくらみとしこりが生じたため、説明義務違反をもってクリニックを訴えるという事案がありましたが、平成28年3月15日の大阪地裁判決では医師の説明義務違反を認めず原告の訴えを棄却しました。

 

また、別の事案では原告が目の下のしわの改善を求めて施術を受けたのに効果がなかったとして説明義務違反により医師に対して損害賠償請求をした事案では、これが認められ、精神的慰謝料30万円を含む損害賠償203万円の支払が命じられる判決が出ました。

 

※2 1996年、タレントの奈美悦子が美容形成手術を受けた際に乳首を失ったとして、執刀した医療法人を相手に損害賠償を求める訴訟を起して話題となったニュースのこと。1997年、執刀医側が約500万円の解決金を支払うことで和解が成立。

美容医療で痛い目にあわないためのポイント7つ

しかし、実際に被害が発生したからといって、必ずしも医師の責任が認められるわけではありません。

 

美容医療で痛い目にあわないためにはどうすべきかについて、独立行政法人国民生活センターは美容医療に対する消費者へのアドバイスとして、

 

①リスク無く簡単にきれいになれるとうたう広告をうのみにしないようにしましょう。

②医師の担当する範囲や施術の流れを十分に確認しましょう。

③想定した金額より高額な料金を提示された場合には、契約しないことを伝えましょう。特に、希望しない即日施術ははっきり断りましょう。

④やむなく高額な契約をしてトラブルとなった場合等には、消費生活センターに相談しましょう。

 

の4つをあげています。そして、消費者庁はチェックポイントを2つに絞って医師の説明を「十分に」理解できましたか?と、その施術は「今すぐ」必要な施術ですか?と消費者に熟慮することを求めています。

 

私からも付け加えさせてください。

 

⑤人を疑ってもいいんです。自分を守るためには。

⑥あなたの人生をコントロールできるのはあなただけ。主体性を強く持って、「NO」と言うべきときに「NO」と言える人になりましょう。

⑦契約してしまってからも諦めずベストを尽くしましょう。どうにかできる方法があるはず。

 

 

三輪 記子
弁護士(第一東京弁護士会)

 

 

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これだけは知っておきたい男女トラブル解消法

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