私立ブランド医学部を選ぶ割合も高いという
それが崩れてきたのが、昨今の状態です。私立医学部が学費をかなり値下げしたことで、がんばれば払える家庭が確実に増えてきたのです。今や国公立医学部と私立医学部を併願することが、ごくごくあたりまえのことになりました。すると、出てくる悩みが、国公立と私立の両方とも受かった場合、もしくは受かる実力がある場合、どちらを選んだらいいか? です。
Eさんは、横浜市立大医学部(前期試験)が第一志望で、順天堂大医学部、昭和大医学部、慈恵医大、そして山形大医学部(後期試験)を併願することにしました。努力の甲斐あって、私立は3校とも合格。
私は「もし横浜市立大医学部が不合格になったらどうする? 周囲の人はどう言っているの? 慈恵医大をすすめているのでは」と彼に尋ねました。すると、Eさんは「やはりそう思われますか。もし前期試験で横浜市立大医学部に落ちても、山形大医学部の後期は受けないつもりです」と返答されました。山形大医学部にはすでに願書を提出していましたが、Eさんには慈恵医大のほうが魅力的だったようです。
また、別の知人は、東大理科三類の前期試験に落ち、千葉大医学部の後期試験に受かりましたが、千葉大医学部には進学しませんでした。どこに進学したかというと慶應義塾大医学部です。
確かに、将来医師になった時、地方の国公立医学部出身よりも、慶應義塾大医学部や慈恵医大出身のほうが洗練されたイメージがあるかもしれません。また、Eさんらは2人とも、東京育ちであるため、親も地方の国公立医学部より、学費が高くても都内の名の知れた私立医学部のほうがいいと考えたようです。
国公立医学部の6年間の学費は平均すると約350万円です。いっぽう、私立医学部の学費はもっとも安い順天堂大医学部が6年間で約2000万円。その差は1600万円程度にまで縮まってきました。けっして少額ではありませんが、親がそれでいいと言えば、私立医学部を選ぶ人もかなりの割合でいるようです。
もっとも、学費の安い国公立医学部といえども、一人暮らしをすれば、学費とは別に生活費として、月に10万円以上の仕送りが必要になります。また、医学生は家庭教師のアルバイトをすることが多いですが、地方では家庭教師の需要が都会ほどはないでしょうし、時給も安価でしょう。
都内の自宅から私立医学部に通い、家庭教師で月5万円ほどを稼ぐことができれば、経済的にそれほど悪くない選択かもしれません。
小林 公夫
作家 医事法学者