「実家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母親が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。日本の高齢化は進み、高齢者と後期高齢者という家族構成が珍しくなくなってきた。老いと死、そして生きることを考えていきます。本連載は松原惇子著は『母の老い方観察記録』(海竜社)を抜粋し、再編集したものです。

大事な時間をくよくよ過ごすのは時間の無駄

④くよくよしない…「元気で老いるための7か条」

 

元気でいきいきしている高齢者の共通点は、くよくよしないことかなと見ていて思う。自然の中で犬猫と暮らしている人は別だろうが、わたしたち都市の人間は、絶えず、人間関係で悩まされていると言っても過言ではない。

 

多くの方も同じだろうが、わたしはこのストレスに弱い人間なので、たいしたことではなくても、無人島で暮らしたくなることがある。「ああ、もう嫌だ。誰もいないところで静かに暮らしたい」と。でも、反面、人が好きなところもあるので、いまだに、一度も無人島どころか、離島にも行ったことがない。

 

人間はどんなに仲良しでも、すべてが一致するわけではないので、「なんで、あんなこと言うんだろう」とか「何も言わなくてもいいのに」と、不快な気持ちを引きずりがちだ。

 

わたしも同じだが、人間は、自分の価値観でものごとを測りがちなので、食い違うときはあまりいい気分がするものではない。

 

友達関係だけでなく、年と共に、業者の言うことに乗り、「ああ…あの話に乗らなければよかった」と後悔することも多くなる。特に金融関係の人からは自分がわからないだけに、だまされることも多々ある。

 

でも、やってしまったことはやってしまったこと。損はしても命まで取られたわけではないので、終わったことは忘れるに限る。

 

若ければ未来があるので、くよくよしている時間はあるが、65歳以上の人には後悔している時間はない。いつ死んでもいいお年頃に突入しているというのに、大事な時間をくよくよ過ごすのは時間の無駄だ。

 

いつまでも終わったことにくよくよしていると、希望のバスが来たことがわからずに、見送ることになる。何度も申し訳ないが、65歳を過ぎたら、次のバスは来るかどうかわからないのだから、気持ちをすっきりさせて、先に進む必要があるだろう。

 

家族の悩み、老後のお金の悩み、友達関係の悩み、貸したお金が返ってこない悩み、病気の悩み、年を食うほど、悩みの種類は多くなり、お金がからんでくることが多くなる。

 

嫌なことがあったら、近所を散歩するなり、お風呂に入るなりして忘れたい。終わったことは終わったこと。振り返らないのが一番、精神衛生上いい。


 
65歳をすぎれば、あとは死ぬだけなのだから、楽しく暮らさないと損だ。65歳になれずに、大きな病気で亡くなった人もいるのだから、自分はどんなに恵まれているか。この年まで命があっただけでラッキーなのに、過去のことにとらわれて生きるのはもったいないことだ。

 

出来の悪い息子がいようが、根性の悪い嫁がいようが、もうそんなことに心を捕らわれている時間はない。忘れよう。忘れよう。明日の楽しみだけを考えて暮らそう。それが許されるわたしたち高齢者は、最高の年代にいるのだから。
 

 

 

 

 

松原 惇子
作家
NPO法人SSS(スリーエス)ネットワーク 代表理事

 

母の老い方観察記録

母の老い方観察記録

松原 惇子

海竜社

『女が家を買うとき』(文藝春秋)で世に出た著者が、「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。 おしゃれ大好き、お出かけ大好…

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