なぜ「デジタルイノベーションは経済成長を牽引」は幻想なのか

コロナ後のわたしたちの社会は、経済成長の追求をやめ、「人間性に根ざして動く社会」へ転換すべきだと筆者は述べます。しかしながら、今のままの方向へ社会を引っ張っていけば崖に落ちることが明白です。しかしこうした主張には反論も見受けられます。ここでは、その反論を打ち消し、「イノベーションをもってしても経済成長の限界は打破できない」と言える理由について見ていきましょう。※本連載は山口周著『ビジネスの未来』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

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「経済性」から「人間性」への転換

私たちの社会は「高原への軟着陸」(※「物質的不足の解消」という古代からの宿願を実現しつつあり、長らく続けた上昇の末に緩やかに成長率を低下させている現在の状況を指す)というフェーズに差しかかっています。では、ここから先、私たちはどちらの方向へ向かうべきなのでしょうか?

 

最初に答えを示せば、それは、

 

「便利で快適な世界」を「生きるに値する世界」へと変えていく

 

ということ、これに尽きると思います。これを別の言葉で表現すれば「経済性に根ざして動く社会」から「人間性に根ざして動く社会」へと転換させる、ということになります。

 

私たちがこれから迎える高原社会を、柔和で、友愛と労りに満ちた、瑞々しい、感性豊かなものにしていくためには、この「経済性から人間性」への転換がどうしても必要になります。これを実現するために必要なのは、ここ100年のあいだ、私たちの社会を苛み続けてきた3つの強迫、すなわち

 

●「文明のために自然を犠牲にしても仕方がない」という文明主義

●「未来のためにいまを犠牲にしても仕方がない」という未来主義

●「成長のために人間性を犠牲にしても仕方がない」という成長主義

 

からの脱却が必要になります。

 

(写真はイメージです/PIXTA)
(写真はイメージです/PIXTA)

目指すべき「高原社会」のイメージとは

もう少し具体的なイメージに分解してこの「高原社会」のイメージを考えてみましょう。往々にして、その人が何を伝えようとしているかは、その人が「何を肯定しているか」を伝えるよりも、むしろ「何を否定しているか」を伝えることによって、より明確になるものです。ここでも筆者の主張をより明確に伝えるために「目指す方向」と同時に「目指さない方向」を示した上で各論に入りたいと思います。

 

 

 

このように示せば、筆者が主張している「高原社会」のイメージが、いま、社会全体が必死の形相をしながら目指している方向とは、大きく異なることがわかると思います。しかし私は、率直に言って現在の方向で社会を引っ張っていけば、その先には高原から奈落へと落ちていく崖しかないと思っています。

 

落ちた崖の下では、ごく一部の人だけが経済的勝者となって享楽的な生活を送る一方で、ほとんどの人は生きがいもやりがいも感じられない「人工知能の奴隷」のような仕事に従事し、オスカー・ワイルドの言葉を借りれば「真に生きているのではなく、ただ生存しているだけ」という人生を送ることになるでしょう。

 

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「テクノロジーイノベーション」は存在しない

まずは基本的な誤解を整理するところから始めましょう。

 

さまざまなデータから、私たちが「成長の無意味化」という局面を迎えていることが導き出されます。このような指摘に対して常に提出されるのが、

 

1.イノベーションによって経済成長の限界は打破できる

 

2.マーケティングによって需要の飽和は延期できる

 

という反論です。まさに「終焉の受容の失敗」を感じさせる主張ですが、この方向で成長主義を延命させようとする限り、私たちの社会はますますディストピアへと近づいていくことになるでしょう。

 

しかし、残念なことに多くの人が、現在の閉塞状況を打破するためには、この2つの方向で経済成長を追求するしかない、と消去法的に考えています。ここではまず、この2つの方向性が「あり得ないオプション」であることをきちんと示しておきたいと思います。ここでは、

 

1.イノベーションによって経済成長の限界は打破できる

 

という、ありがちな反論をさばいてしまいましょう。

 

最初に結論を言ってしまえば、この反論はナンセンスとしか言いようがありません。理由は非常にシンプルで、ここ30年のあいだに私たちの生活をこれほどまでに激変させたインターネット関連のイノベーションですら経済成長の限界を打破できていないからです。

 

インターネットの普及が進んだ1990年代も、スマートフォンの普及が進んだ2000年代も、人工知能の普及が進んだ2010年代も、先進国のGDP成長率は明確な低下トレンドを示しており、反転の気配がありません。あれほどのインパクトをもたらしたインターネットや人工知能などのイノベーションをもってしても明確な低下トレンドにある経済成長率を反転できなかったのだとすれば、いったいどれほどのイノベーションをもってくればそれが可能だというのでしょうか。

 

今日、インターネットや人工知能といったテクノロジーが21世紀のニューエコノミーを牽引するといった「能天気な雰囲気」が世の中に横溢していますが、そのような事実を示すデータはありません。ノーベル経済学賞を受賞した2人の経済学者、アビジット・V・バナジーとエステル・デュフロは、近著で次のように述べています。

 

フェイスブックのCEOマーク・ザッカーバーグはインターネットの接続性が計り知れないプラス効果をもたらすと信じているが、そうした信念を共有する人は大勢いるらしく、多くの報告書や論文にそれが反映されている。たとえばアフリカなど新興国に特化した戦略コンサルティング会社ダルバーグが発表した報告書には「インターネットが持つ疑う余地なく膨大な力がアフリカの経済成長と社会変革に寄与することはまちがいない」と書かれている。

 

この事実はほとんど自明なので、あれこれ証拠を挙げて読者を煩わせるまでもないと考えたのだろうか、何のデータも引用されていない。これは賢い判断だったと言うべきだろう。そんなデータは存在しないからだ。先進国に関する限り、インターネットの出現によって新たな成長が始まったという証拠はいっさい存在しない。

 

アビジット・V・バナジー、エステル・デュフロ『絶望を希望に変える経済学』

 

ここでバナジーとデュフロが「いっさい存在しない」とわざわざ強調して言い切っている点に注意してください。一般に、ある命題を強く言い切ることに対しては慎重になるはずの学者が、わざわざ「いっさい」という強調をつけて断じるほどに、この命題には疑いの余地がないということです。

 

先進国の中でもっとも経済成長率の高いアメリカが、数多くのテクノロジーイノベーションの発信地であることから、両者を安易に紐付けて「テクノロジーイノベーションが経済成長を牽引している」と早とちりする人が多いということなのでしょうが、バナジーとデュフロの2人が指摘するように、両者を関係づけるデータは存在しません。

 

世界銀行が発行している「世界開発報告」の2016年度版では、いかにも歯切れ悪く「インターネットが経済にもたらしたインパクトについては、まだ結論が出せない」と述べられていますが、インターネットの普及が始まってからすでに四半世紀が経とうとしているというのに、いまだに「結論が出せない」ということは、いったいいつまで待てば結論が出るというのでしょうか。

 

 

山口周

ライプニッツ 代表

 

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ライプニッツ 代表 独立研究者
著作家
パブリックスピーカー

1970年東京都生まれ。神奈川県葉山町に在住。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史専攻修士課程修了。

電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。

その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』『ニュータイプの時代』(ともにダイヤモンド社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。

(的野 弘路=撮影)

著者紹介

連載日本人はコロナ後の世界をどう生きるべきか

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

山口 周

プレジデント社

ビジネスはその歴史的使命をすでに終えているのではないか? 21世紀を生きる私たちの課せられた仕事は、過去のノスタルジーに引きずられて終了しつつある「経済成長」というゲームに不毛な延命・蘇生措置を施すことではない…

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