近代化によって物質的豊かさを獲得した人々は「意味の喪失」という状況に陥ります。人間は意味も意義も感じられない営みに携わって生きることはできません。ここでは終焉をきちんと受け止め、新しい千年紀に向けてどのような価値を社会に実装していくのか、という問題を考えるとともに、GDP成長率のトレンドについて確認します。※本連載は山口周著『ビジネスの未来』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

2020年は世界恐慌以来、最悪の経済収縮が起きる

次にGDPを確認してみましょう。

 

2020年6月、国際通貨基金(IMF)は、2020年の世界経済成長率をマイナス4.9%と下方修正した上で「1929年の世界恐慌以来、最悪の経済収縮が起きる」と発表しました。

 

各国別の予測を確認すると、たとえばアメリカは1946年以来最悪のマイナス成長、イギリスは1709年以来最悪のマイナス成長、フランスも1950年以来最悪のマイナス成長となることが予測されています。

 

IMFによれば、コロナパンデミックの第2波が無事に収束すれば「世界経済はふたたび成長基調に戻る」としていますが、この言い方は…おそらくは意図的なものだと思いますが、非常にミスリーディングなものだと思います。

 

というのも、コロナ発生以前の段階においてすでに、先進国の経済成長率は長期的に明確な低下トレンドにあったからです。図表をご覧ください。

 

出所:世界銀行ウェブサイトをもとに筆者集計
<br>(https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.KD.ZG)
[図表]先進7カ国のGDP成長率 出所:世界銀行ウェブサイトをもとに筆者集計 (https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.KD.ZG)

 

これは世界銀行が発表している先進7カ国、いわゆるG7の国別GDP成長率の推移の平均を時系列でまとめたものです。各国のGDP成長率を10年ごとに平均して(たとえば1980’sであれば1981年から1990年までの各年のGDP成長率を平均する)算出しています。

 

データは2019年までの集計であり、コロナの影響は含まれていません。またドイツのデータは1971年からとなっており、1960’sの平均値には算入していません。

 

このチャートを見てまず気づくことは、半世紀にわたって先進国GDP成長率が明確な下降トレンドにあり、今後このトレンドが反転することは考えにくい、ということです。

 

筆者はさまざまなところで「未来予測はどうせ外れる」と言っているので、このような指摘をすると「おいおい宗旨替えかよ」と思われるかもしれませんが、これほど明確なトレンドが半世紀以上にわたってつづいている以上、この長期トレンドが反転する可能性は低いと考える方が自然でしょう。

 

IMFによる「世界はふたたび成長基調に戻る」というアナウンスを聞けば、誰でも「コロナ直前の世界経済は成長基調にあった」と誤解するでしょう。ところが実際のところは、コロナがあろうとなかろうと、先進国の経済成長率は中長期的にゼロを目指して低下しつつあったのです。IMFの発表を筆者が「ミスリーディングだ」と指摘する理由はここにあります。

 

私たち日本人は、先進国のなかでも、日本だけが経済成長の波に乗り遅れているといった印象を抱きがちですが、そのような印象は事実に反しています。この数値は、経済成長率の低下が、個別の国の経済政策の巧拙によって発生しているのではなく、経済成長の末に成し遂げられた文明化=物質的生活基盤の完成によって発生する宿命的な事態なのだということを示唆しています。

 

 

山口周

ライプニッツ 代表

 

 

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