こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

政治は国民が参加するから前に進められる

私は、幼いときに父と友人たちの議論を聞いていた経験から、「立法院を占拠した若者たちには、必ずや自分たちの主張があるのだろう」と確信していました。話を聞いていると、学生たちはもちろん、立法院の外で彼らを支援する20以上の民間団体にも、それぞれの主張があり、どの主張にも説得力がありました。

 

そこで、私は学生たちが立てこもる立法院内の様子をg0v(gov-zero:オープン・ガバメントを追求し、政府に対して徹底した情報公開と透明化を求める台湾の民間団体)のメンバーとともにネットでライブ配信して、学生たちの運動を支援しました。私たちはライブカメラで立法院の中と外をつないで、20の民間団体が人権・労務・環境問題などを話し合えるようにしました。

 

そして、3週間で4つの要求をまとめて立法院の議長に提案しました。すると、当時の議長はその4つの要求が合理的なものであると認め、すべての要求に応えてくれたのです。

 

このときの経験により、台湾の人々は「デモとは、圧力や破壊行為ではなく、たくさんの人に様々な意見があることを示す行為である」ということに気づき、それをきっかけに、官民の間で対話の機会が増えました。「政治は国民が参加するからこそ前に進めるものなのだ」と皆が実感するようになったのです。

 

私自身は、どれか一つの主張を選択するのではなく、それぞれの主張の隔たりを明確にして議論を活性化し、そこから共通の価値を見つけることを促すようにしました。これは現在、私が政治に関わるスタンスそのものであると言っていいでしょう。

 

そのような考え方に至った原点には、やはり11歳の頃のドイツでの体験があるように思います。当時、二十代の友人やすでに四十代になっていた父は、私よりもはるかに多くのことを知っていました。彼らは私の先生であったと思っています。実際に私の立場からすると、彼らから学ぶことは非常に多く、それだけに「自分の考えこそが絶対に正しい」と思うこともなかったのです。

 

今振り返ると、ひまわり学生運動で立法院を占拠したことは、歴史的な「選択」だったのではないかと思います。当時の通信環境はまだ4Gでしたが、中国製のチップを台湾のメインコンピュータに入れるかどうかが問題になりました。あるいは、もっと大きなくくりで言うと、台湾のサービス貿易を全面的に中国に開放するかどうかということも含めて問題になっていました。その審議が不十分なまま議事が進められていることが、政府への不信感につながっていったのです。

 

もし、あのとき立法院占拠が行われず、サービス貿易協定が結ばれていたとすれば、台湾のネット環境は、中国の協力によって構築されることになっていたでしょう。そうなっていたら、アメリカは現在のように台湾に対する態度を変化させることはなかったと思います。アメリカからすれば、台湾は大中華圏の一部に過ぎないからです。

 

あのとき、人々が立法院を占拠したからこそ、「台湾のインフラに中国は入れさせない」という明確な意思表示ができたのです。それを政治的基礎として、台湾とアメリカの対話が始まったのだと思います。

 

その意味で、2014年の台湾人の決断は、非常に大きな転換点となるものでした。その年の末に行われた地方選挙では、非民主主義的な発言をした候補者、国民と議論しない候補者、民主主義を標榜しない候補者は、軒並み落選しました。その後の選挙でも、あらゆる候補者は、民主主義を標榜しないと当選できないようになっています。

 

そうした風潮が生まれたということも含め、ひまわり学生運動は、台湾に民主主義を根づかせるきっかけとなりました。

 

 

 

 

オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

 

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