②準確定申告、相続税申告と遺産分割協議書を作成
1.準確定申告の要否
相続手続きにおいては、相続放棄や限定承認の申述以外にも期限が定められているものがあり、その一つが故人の準確定申告です。個人事業主や複数の収入がある方、臨時的な収入があった方など、確定申告が必要な方が亡くなった場合には、その故人の準確定申告書を提出しなければなりません。
⇒相続の開始があったことを知った日から4ヵ月以内
伯父は定年まで企業に勤めており退職後は無職、亡くなった年分の収入は年金と所有する株式の配当等(源泉徴収あり)のみで、近年確定申告書を提出した事実もなかったため、準確定申告は不要と判断しました。
2.相続税申告の要否
相続税の申告が必要となるのは、遺産総額が相続税の基礎控除額を超える場合や、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用することによって納める税額がゼロとなる場合などです。
⇒3,000万円+600万円×法定相続人の数
伯父の遺産は、不動産に加えて預貯金や上場株式が多くあり、生命保険金の非課税枠を使い、未納の公租公課などの債務と葬儀費用を差し引いても、相続税の基礎控除額を超えるため、相続税の申告が必要となりました。
※相続税申告書の提出期限⇒相続の開始があったことを知った日から10ヵ月以内
3.遺産分割協議書の作成の要否
相続が発生した場合、遺産分割協議書は必ず作成しなければならないのでしょうか。
相続人が1人だけの場合や遺言ですべての財産を相続する人が決められている場合、不動産や株式など名義変更が必要な財産がなく相続税申告も必要ない場合は遺産分割協議書を作成する必要はありません。
本事例では相続人がAさん含め甥姪3人で、不動産や株式の財産があり、相続税申告も必要なことから遺産分割協議書の作成することとなりました。
「法定相続分」と「相続税の2割加算制度」
亡くなった伯父には配偶者と子どもがなく、両親も他界していたため、次弟の姪2人(Aさんと妹)と三弟の甥1人が代襲相続により法定相続人となりました。
それぞれの法定相続分は、Aさんと妹が1/4、三弟の甥が1/2となり、相続税の計算にあたっては相続税の2割加算制度の適用があることをAさんに説明しました。相続税の2割加算制度とは、配偶者及び子や親など一親等の血族以外の人が相続をした場合に適用される制度であり、各人の税額控除前の相続税額の2割の金額が納付する相続税額に加算される制度です。
※2割加算が行われる場合の加算金額
=各人の税額控除前の相続税
「相続の開始を知った日」はいつを示すのか?
相続手続きには上記のように、期限があるものがいくつもあり、この場合に起点となるのが「相続の開始があったことを知った日」です。孤独死の場合には正式な死亡日が確認できないことも多く、警察から身元確認の連絡や通知があった日や、司法解剖の結果を知った日など複数の時点が存在します。
相続税法上では、これらの複数の日のなかから、「自己のために相続開始があったことを知った日」を選択することとなりますが、今回はAさん含む相続人の全員が、警察の身元確認の連絡を同日中に受け取っていたため、この日を「相続開始があったことを知った日」として手続きを進めました。
一人暮らしの高齢者が、コロナ禍において病院の診療や外出を自粛した結果、周囲から孤立して孤独死に至るという事例も増えているようです。孤独死の相続が発生した場合には、亡くなった方との関係や周囲の状況などを整理し、必要であれば専門家に依頼をして相続手続きを進めていく必要があるでしょう。
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】