近年「レーザーを使った白内障手術」が増加
最近、白内障手術の中でも数が増えてきているのが、レーザーを使った白内障手術です。フェムトセカンドレーザーという特殊なレーザーを照射する機械を使って、白内障手術の主要な部分を行うものです。
アルコン社「LenSx®」という手術機器はFDA(アメリカの厚生労働省)認可の製品で、世界70ヵ国以上で1000台以上が使用されており、施術実績はすでに100万症例以上に上ります(図表1)。日本でも私のクリニックグループをはじめ、一部の医療機関が導入しており、白内障手術の実績が増えつつあります。
ベテラン医師でなくても「80点~90点の手術」が可能
このレーザー白内障手術が優れているのは、正確な施術ができることです。
白内障手術のうち、レーザーで行うことができるのは角膜切開、前嚢切開、水晶体分割、角膜減張切開(乱視矯正)といった切開の部分ですが(図表2)、これらの一つひとつのプロセスを正確に行えるのが特徴です。そのため角膜内皮障害や褐色白内障、チン氏帯が弱くなっている場合など、精巧な技術が必要な特殊な例に関しては、レーザーを選択したほうがよいでしょう。
水晶体を包んでいる前嚢の切開でいえば、通常の手術で正確な円に切開するには熟練の技術が必要です。ある程度実績のある眼科医でも、患者の眼の状態などによって、いつも同じように切れるとは限りません。その点、レーザーであれば、いつも同じように高水準の切開ができます。
極端にいえば、少々腕の劣る医師でもレーザーを用いれば、いつでも80点、90点という精度の高い施術ができるということです。
特に、遠くにも近くにもピントがあう「多焦点眼内レンズ」や、乱視を矯正する「トーリック眼内レンズ」などの高機能眼内レンズを使用するときは、正確な施術が必要になるため、レーザー白内障手術のメリットは大きいといえます。
逆に言えば「90点止まり」…ベテラン医師が勝る部分
ただし、レーザーにもやはりデメリットがあります。
わかりやすい点としては、施術にレーザーによる眼の計測なども含まれるので、通常の手術よりも手術時間が長くなることです。レーザーのセットをするだけで10分以上かかることもあるため、手術に習熟した医師がレーザーではなく手技で手術をすれば、レーザー機械をセットしている間に手術がすべて終わります。
また切開の精度という点でも、実はレーザーはベテランの医師の域にはまだ及びません。レーザーは小さな点で切開をするため(図表3、4)、切り口を拡大すると、郵便切手の端のようなギザギザになっています。
切り口がなめらかで、なおかつ眼内レンズを入れた状態で真円になるようなベテラン医師の「100点満点」の切開は、レーザーにはまだ望めない状態です。そこが、私が「90点止まり」と判断する理由です。
場合によっては100万円以上も…レーザー手術は高額
もう一点問題なのは、レーザー白内障手術の治療費が一般に高額になることです。医療機関によってもかなり差がありますが、保険適用の眼内レンズを入れて片眼十数万円といったケースから、眼内レンズも含めて完全自費で片眼50~80万円、なかには100万円を超える例もあります。
しかしこれほど費用をかけても、眼内レンズの選択や屈折の調節のしかたなどによっては、必ずしも満足のいく仕上がりになるわけではないことを、知っておいてほしいと思います。
最近では、ZEPTO(ゼプト)と呼ばれる新しい手術機器も登場しています。水晶体の白濁が進んでいる、角膜に濁りがあるといった難しい症例の場合、レーザーでは前嚢切開ができないことがありますが、ZEPTOではそうした難しい症例でも優れた威力を発揮します。ただし自費診療でZEPTOを使用する場合、レーザーより多少安いとはいえ、手術費用は高くなります。
ちなみに私のクリニックグループでも、難しい症例に対してのみZEPTOを用いた白内障手術を行っていますが費用は保険診療の場合と同額で対応しています。
「術式」と「眼内レンズの種類」の選び方が金額を左右
ここで一般的に白内障手術の治療費についても、確認しておきましょう(⇒【画像】手術料金比較表)。
手術にかかる費用は、大きく分けて手術前後の検査などの費用と、手術費用の2つがあります。手術費用には眼内レンズの費用も入るため、眼内レンズの種類によって手術費用も大きく変わってきます。
治療費は医療機関によっても、手術の内容によっても異なりますが、およその目安は次のようになります。
<保険適用の眼内レンズの手術は片眼6~7万円(3割負担)>
一般の会社員など健康保険3割負担の場合、手術前・手術後の検査にかかる費用は2万円前後です。手術費用は、保険適用の単焦点眼内レンズの場合、片眼で4~5万円ですから、合計6~7万円が目安です。両眼の手術では12~14万円ほどになります。70歳以上で1割負担の方では片眼で総額2万円、70~74歳で2割負担の場合、総額4万円ほどが一般的です。
保険診療の白内障手術で、一定の自己負担限度額を超えた場合、「高額療養費」の申請をすれば、限度額を超えた分はあとで払い戻しされます。限度額や申請の方法は、病院の医療相談室や自治体窓口などで確認してください。
<厚労省承認の多焦点眼内レンズの手術なら片眼25〜40万円>
多焦点眼内レンズで、厚労省の定める「選定医療」認定のあるものは、レンズ代以外の手術費用と、検査費用は保険診療と同額になります。
ただし、この制度は登録制です。先進医療を実施していた医療機関すべてが登録している訳ではなく、基準も先進医療の際よりも緩和されています。
<多焦点眼内レンズで、選定医療認定でないものは片眼50万円>
多焦点眼内レンズの中で、選定医療の認定のないものは、検査から手術まで全額が自己負担になります。そのため手術にかかる費用は片眼で総額50万円〜80万円、両眼で100万円以上かかるケースが多くなっています。
迷ったら「保険診療の単焦点眼内レンズ」がオススメ
白内障手術をするにあたっては当然、費用の問題は無視できません。ですから、費用と希望するライフスタイルや必要な視機能をよく考えたうえで、もっとも適した手術法や眼内レンズを医師と相談して決めるようにしてください。
私自身は、迷うようなら「保険診療の単焦点眼内レンズ」でまず治療することをお勧めしています。
最近では、必要に応じて2枚目の眼内レンズを入れて、視機能を補うこともできるようになっていますし、その人の生活にあったピントの位置、広さを設定すれば、保険診療の手術でも十分満足な結果が得られるようになっています。
市川 一夫
日本眼科学会認定専門医・認定指導医、医学博士
市川 慶
総合青山病院 眼科部長