感度を高めれば「冤罪」が増えるという事実
たとえば、「頭に頰かむりをして風呂敷を背中に担いでいる男を泥棒とする」という「基準」を作ったとしましょう。これじゃ、ほとんどの泥棒は見逃してしまいそうです。よって、「キョロキョロしている男は泥棒だ」と基準の閾値を下げます。
こうすれば、相当数の泥棒は捕まえることはできるかもしれません。でも、当然ですが、キョロキョロしていても泥棒ではない男だってたくさんいるでしょう。トイレを探しているだけだった、とか。よって、基準を下げれば「見逃し」は減りますが、「冤罪」はトレードオフとして増えてしまうのです。
かなり、分かりやすい例えで説明したつもりですが、これでも理解していただけないことは多いです。
なぜ「当たり判定」(感度)の精度を上げると、誤判定の割合(特異度)も上がってしまうのか――この「感度/特異度」問題については、実は医学生でもきちんと理解できていない人がたくさんいます。僕自身も腑に落ちるまでは何年もかかりました。
ですから、一般の読者のみなさんが完全に理解しようとする必要は必ずしもありません。「病気ではない人が陽性と判定されることもあれば、病気の人が陰性だと判定されることもある。それはあらゆる検査で避けられないことだ」そういうざっくりとした理解で充分です。
ちなみに、新型コロナのPCRは感度が低いことがよく知られています。つまり、ウイルスに感染しているのに陽性にならないケースがたくさんある。
世界最高レベルの医学専門誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に掲載された論文(※)において、執筆者たちは「PCRの感度は70パーセント」と見積もっています。僕の体験的実感でも、だいたいそんなところかなと思います。
もう1度くり返しますと、感度70パーセントの検査においては、10人の感染者(本当の陽性者)のうち3人が陰性と判定されます。100人のうち30人、1000人のうち300人の「本当の陽性者」が「あなたは新型コロナに感染していません」と判定されてしまうわけです。
※ Woloshin S, Patel N, Kesselheim AS. “False Negative Tests for SARS-CoV-2 Infection? Challenges and Implications.” The New England Journal of Medicine. 2020 Jun 5;0(0):null.