医師という職業に対する安定志向の高まり、私大医学部の学費値下げ(東京女子医科大学など、現時点では数校値上がりしている大学がある)などもあり、近年、医学部人気が高まっているという。従来からの医師家庭や富裕層にサラリーマン家庭が続々参戦し、全国の82医学部入試の難易度が上昇している。では、どうすれば難関の医学部を突破できるのか。わが子の育て方、接し方から入試対策までを明らかにする。本連載は小林公夫著『わが子を医学部に入れる』(祥伝社新書)から一部を抜粋し、再編集したものです。

女性は自分の妊娠や出産の経験を仕事に活かせる

女性医師こそ、産婦人科医に!

 

Kさんは地元の国立大医学部を卒業後、沖縄の病院で3年間研修をしました。前述のように、当時は医学部卒業後に専門を選んで医局に入るため、専門外の科は研修できないシステムでした。

 

しかし、「国境なき医師団」に憧れていたKさんは、いつかは医師がいない場所で働きたいと思っていたので、さまざまな科をローテーションで研修できる病院を探し、沖縄に行くことを決めました。1年目は全科を回り、2年目からはレジデント(インターン修了後に臨床訓練を受ける研修医)を終え、産婦人科を専門に選びました。

 

産婦人科を選んだのは大学時代に知り合った、ある夫婦がきっかけでした。夫が外科医、妻が産婦人科医で、ネパールでの医療活動を終え、日本に帰ってきた時に知り合い、自宅に呼ばれるほど仲良くなりました。「日本キリスト教海外医療協力会」は、医療が遅れている国に医師を派遣していますが、そこで経験されたさまざまな話を聞くうちに「このような医師になれたらいいな」と思ったそうです。

 

その後、夫婦は子どもたちが大きくなった頃にもう一度ネパールに行こうと、富士山で登山の練習をしていたところ、妻が滑落事故に遭い亡くなられてしまいました。大学生のKさんはショックを受け、彼らがしようと思っていたことを自分が代わりにしたいと考え、憧れていた奥さんと同じ産婦人科を選んだのです。

 

実際に産婦人科医になってみると、その仕事内容はとてもハードでしたが、Kさんは「特に、女性に産婦人科をすすめたい」と言います。「女性は自分の妊娠や出産の経験を産婦人科医の仕事に活かせるから」という理由です。教科書で読んだ知識をそのまま言うのではなく、経験者として実感したことを伝えるので、患者にも安心感を与えることにつながるそうです。

 

確かに、他の科であれば、妊娠、出産で休むことはマイナス要素としてとらえられますが、産婦人科の場合はその医師の経験として活かされるのでプラス面が大きいでしょう。もちろん妊娠や出産の経験がなくても、更年期のことなど、実感をともなったアドバイスをすることができます。

 

産婦人科専門医になるには、5年の実務経験と筆記試験が必要です。専門医の資格があるのとないのとでは、次の就職がまったく違ってきます。取得できる人は取得したほうがいいでしょう。資格を持っていない人は、研修途中に結婚して妊娠、出産したパターンが多いようです。

 

そうなると、資格を取るだけの症例数をこなせず、取得できずに、次の就職先がなかなか決められない、という悪循環に陥りがちです。産婦人科医を目指す人は、そのあたりも考慮したほうが順調にキャリアを積むことができるでしょう。

 

 

小林 公夫
作家 医事法学者

 

 

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わが子を医学部に入れる

わが子を医学部に入れる

小林 公夫

祥伝社

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