民事信託は、自身の老後資産の確保や、次世代への資産承継を確実なものとする非常に有効な手段ですが、仕組みの複雑さがネックとなり、活用をためらう方が多いのです。本記事では、弁護士の伊庭潔氏が、民事信託について実務的な視点からわかりやすく解説します。※本記事は、『信託法からみた民事信託の手引き』(日本加除出版)より抜粋・再編集したものです。

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選択基準は、身上保護の要否・財産の活用と借入れ要否

Q:民事信託と任意後見を使い分けるポイントはありますか。

 

 1:民事信託と任意後見 

 

ここでは、主に、民事信託と任意後見を使い分ける際のポイントについて説明します。

 

 2:民事信託と任意後見の使い分けのポイント 

 

(1)本人の判断能力

 

まず、相談者本人に判断能力があるかを確認します。

 

①相談者に判断能力がない場合は、法定後見を利用するしか方法はありません。

 

②他方、相談者に判断能力がある場合には、民事信託又は任意後見の選択肢が考えられます。

 

(2)身上保護の要否

 

ア 身上保護の必要性

 

次に、相談者の身上保護に特に配慮する必要があるかを検討します。

 

①相談者の身上保護に特に配慮する必要がある場合には、任意後見を利用することを検討します。また任意後見と民事信託を併用することも選択肢になります。

 

②他方、相談者の身上保護に特に配慮する必要がない場合には、民事信託を利用することに問題がないことになります。

 

イ 家族による支援

 

さらに、相談者の入院、施設入所等に際し、家族の支援を受けられるかも問題になります。

 

①相談者の入院等の際に、家族支援を受けられる場合には、本人の身上保護に配慮する必要があったとしても、民事信託の利用が選択肢に入ってきます。

 

②他方、相談者に身上保護へ配慮する必要性があり、かつ、入院等に際し家族の支援を受けられない場合には、任意後見を選択することにならざるを得ません。

 

(3)裁判所の監督

 

相談者が、財産管理に関し、裁判所による厳格な監督を望むかどうかも問題になります。

 

①相談者が裁判所による監督を希望する場合には、任意後見を選択することになります。

 

②他方、相談者が裁判所による監督を望まない場合には、民事信託を選択することが望ましいでしょう。

 

(4)制度の利用目的

 

相談者が何を目的に相談に来ているのかも重要です。

 

①相談者が財産の管理のみを目的にしている場合には、民事信託と任意後見が選択肢になり得ます。

 

②相談者が財産の管理及び財産の承継を目的にしている場合には、多くの選択肢があります。民事信託のみを利用しても相談者の目的を実現できますが、民事信託と任意後見を併用することも可能です。また、民事信託と遺言を併用することもできますし、任意後見と遺言を併用することも可能です。

 

③相談者が財産の承継のみを目的としている場合には、民事信託又は遺言が選択肢になります。もちろん、民事信託と遺言を併用することも可能です。

 

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(5)信託財産の種類

 

相談者の財産が信託することが可能な財産かという点も問題になります。

 

①相談者の財産が信託可能な財産である場合には、民事信託が選択肢に入ります。

 

②他方、相談者の財産が信託できない財産の場合には、任意後見を選択せざるを得ません。信託できない財産としては、農地、賃貸人が譲渡を承諾しない借地権などが挙げられます。また、有価証券についても、証券会社の対応次第では、事実上信託することができない財産に該当します。

 

(6)信託財産の活用や借入れの要否

 

ア 財産の積極的な活用

 

財産の積極的な活用が予定されているかも問題になります。

 

①相談者が財産の積極的な活用を望んでいる場合には、民事信託を利用することが適しています。

 

②他方、相談者が財産の積極的な活用を考えていない場合には、民事信託を選択することも、任意後見を選択することも考えられます。

 

イ 金融機関からの借入れ

 

制度利用後に、金融機関から借り入れることを予定しているかも重要です。

 

①金融機関からの借入れを予定している場合には、民事信託を利用することが適しています。

 

②他方、金融機関からの借入れを予定していない場合には、民事信託を利用することも、任意後見を利用することも選択できます。

 

(7)財産の承継方法

 

相談者が世代を超えた財産の承継(後継ぎ遺贈)を望んでいるかも重要になります。

 

①相談者が世代を超えた財産の承継を望んでいる場合には、民事信託を利用することになります。

 

②他方、相談者が世代を超えた財産の承継を望んでいない場合には、民事信託を利用することも、任意後見を利用することも選択肢になります。

 

(8)受託者候補の有無

 

最後に、相談者の周りに民事信託の受託者の候補者がいるかが問題になります。

 

ア 家族や友人等の協力者

 

①相談者に、受託者の候補者がいる場合には、民事信託を選択することができます。

 

②他方、相談者に、受託者の候補者がいない場合には、民事信託を利用することが難しく、民事信託を利用するには後記のとおり、信託銀行や信託会社の利用を検討することになります。

 

イ 信託銀行や信託会社の利用

 

①相談者に、信託銀行や信託会社を利用するだけの資力がある場合には、民事信託の利用が選択肢になります。

 

②他方、相談者に信託銀行や信託会社を利用するだけの資力がなく、かつ、周囲に受託者の候補がいない場合には、任意後見を利用するしか方法がないことになるでしょう。

 

 

伊庭 潔

下北沢法律事務所(東京弁護士会)

日弁連信託センター

 

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