目の構造から学ぶ「色がわかる仕組み」
まず人の目がどのように色を感じているかについて、おおまかにその仕組みを知っておきましょう。
人の目というのは、よくカメラの構造に例えられます(図表1、2)。外界から入ってきた光は、まず「角膜」という厚さ1ミリほどの透明な組織を通過します。そして「瞳孔(どうこう)」に至ります。瞳孔はカメラの光の量を調整する絞りの機能を持っており、光の量に応じてその径を変化させます。
瞳孔を抜けると、「角膜」と「水晶体」を通過することになります。この角膜から水晶体までの器官がカメラのレンズにあたる部分で、光を屈折させ焦点を結ぶべきところに集める機能をはたしています。
その後は「硝子体」というゼリーのような透明な物質を通り抜け、最後は「網膜」に像を結びます。
網膜は、カメラでいうとフィルムの役割にあたりますが、フィルムが平面なのに対し、網膜は眼球の内側に沿って曲面をなしています(図表2)。
網膜を顕微鏡で調べると、およそ10層に分かれており、その奥の方には外界からの光を受けて、その刺激を脳に伝える信号を最初に発する細胞の一群があります。
この一群を「視細胞」といい、光は最初にこの細胞で受けとられています。
視細胞には、先が棒のような形をした「杆体(かんたい)細胞」と、円錐状になっている「錐体(すいたい)細胞」の2種類ありますが、そのうち色覚を担っているのが錐体細胞です。
錐体細胞には「色素」が存在し、「錐体色素」とよばれます。錐体色素はその色素の種類によって、長波長感受性錐体(L錐体。古くは赤錐体という)、中波長感受性錐体(M錐体・緑錐体)、短波長感受性錐体(S錐体・青錐体)と区別されています。
これらの3種の錐体色素は、光の波長に反応して脳に色を伝える役割を担っていて、網膜の中にある割合で混じりあって分布しています(図表3)。
赤、緑、青に反応する…人の色覚を作る「3つの細胞」
L錐体は長い波長の光(赤)、M錐体は中間の波長(緑)、S錐体は短い波長(青)に対して敏感に反応します。つまり、簡単にいうと赤、緑、青という光を吸収して、その刺激を色として脳に伝えることで、色覚が生まれるのです(図表4参照)。
赤、緑、青という光の三原色は、人の色の感じ方の仕組みにもとづいています。テレビやパソコンのディスプレーなどは、この3色の組み合わせで色を表現していますが、それは、人の色覚がこの3つの細胞から構成されているからです。
「光の三原色」と「反対色」は、もともとは色を感じる仕組みとして考えられた説でしたが、視細胞までは三原色の化学反応、双極細胞からは反対色応答の電気信号となって情報が脳へと送られていきます(図表5参照)。
光が目に入った時、視細胞(S錐体、M錐体、L錐体、杆体)は、その波長に合わせてそれぞれ程度を変えて反応し、その反応度合によって色として認識します。この視細胞がどの程度反応するかを示した図が図表6(分光感度)です。
図表6でみるとたとえば、赤やオレンジといった長波長の光が入ってきたら、L、M、Sの錐体がそれぞれ反応しますが、L錐体がもっともよく反応します。錐体の反応度合で色を認識できるのです。
また、黄色の単色光は、M錐体とL錐体を同じくらい刺激することで認識されますが、同様にM錐体をもっとも刺激する波長と、L錐体をもっとも刺激する波長を混ぜても、実は同じ黄色に見えることもあります。
これらの見え方は、光の波長とその量、組み合わせで微妙に変化します。人の目は、100万色もの色を見分けているといわれています。
「色」の正体は、人間の脳に共通する「波長の感じ方」
人が色を感じる仕組みにはもうひとつ、光の三原色のほかに「反対色」という説がありました。これも網膜内に「赤-緑応答」「黄-青応答」「白-黒応答」の三種類の応答があり、その応答の電気シグナルが双極細胞から中枢へと送られていくというものです。
つまり、視細胞までは三原色の化学反応として色の情報が送られ、双極細胞から脳へは反対色応答という信号へ変換されて脳へと伝達されていくのです。
ほかにも、さまざまな説があり、どれが正しいのかはまだ解明されていません。
しかし現在ではこの2つの説をあわせた説が有力視されています。網膜の視細胞レベルでは三原色、それ以降の双極細胞から脳までは反対色による電気信号を送り、脳で再構成して色として認識していると考えられているのです。
まとめると色とは、光の波長であり、私たち人間に共通する脳のその波長の感じ方を「色」と表現しているにすぎないのです。
市川 一夫
日本眼科学会認定専門医・認定指導医、医学博士