菅政権は、今夏の東京オリンピック・パラリンピックについて、外国人観客を受け入れない方針を固めたようだ。10月に総選挙が見込まれるなか、その直前における新型コロナ感染拡大のリスクを避ける意図だろう。高齢者、基礎疾患のある人を除き一般国民のワクチンの接種は秋からになる可能性が強い。訪日外客の本格的な受け入れ再開は2022年以降になるだろう。

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ワクチン接種:一般健常者は秋以降か!? 

現段階で日本政府が承認した新型コロナワクチンは、ファイザー製のみであり、アストラゼネカ、モデルナ製が承認申請を行った。

 

厚労省などによれば、2回接種を前提とした場合、ファイザー7,200万人分、アストラゼネカ6,000万人分、モデルナ2,500万人分の調達を契約しており、合計すると1億5,700万人分で国民全体に接種可能な量だ。

 

河野太郎担当大臣は、3月12日の会見において、ファイザー製に関し5月に2,150万人分、6月はそれ以上が供給される見込みであると発表した。このスケジュールならば、3、4月分の846万人分と合わせ、5,200万人程度への接種を7月中にも終えることになる。

 

先行接種が始まった医療従事者に加え、高齢者、基礎疾患のある人、高齢者施設の従事者への接種が一巡することになるだろう(図表1)。

 

(出所)厚労省の資料、各種報道よりピクテ投信投資顧問が作成
[図表1]ワクチン接種の優先順位 (出所)厚労省の資料、各種報道よりピクテ投信投資顧問が作成

 

もっとも、高齢者、基礎疾患のある人を除く一般国民への接種は、早くても今夏以降となる。また、ワクチンは世界で奪い合いになっており、日本政府の想定通りに調達できるのか、不透明感が完全に払拭されたわけではない。

 

さらに、新型コロナは、英国、ブラジル、南アフリカに加え、フィリピン由来の変異株が確認された。これら変異株は、従来型に比べて感染力が強く、重症化し易いとの見方があるなか、ワクチンの効果について検証が行われている。

 

既に国内でも変異株への感染、死亡が確認された。仮に変異株に対するワクチンの効果が明確となった場合でも、日本全体にワクチン接種が広がらなければ、海外との間で人の行き来を再開するのは極めて難しいだろう。

 

特に菅義偉首相は、衆議院の解散時期について、自らの自民党総裁としての任期満了に近い9月を想定、10月に総選挙が行われる可能性が強まっている。オリンピックは7月23日~8月8日、パラリンピックは8月24日~9月5日に行われる予定だ。

 

この時期に大規模な訪日客を受け入れた場合、総選挙の時期に新型コロナの感染がピークを迎えている可能性は否定できない。そうしたリスクを考えれば、五輪に海外からの観客を受け入れることは現実的ではないだろう。

宿泊・飲食業界:淘汰や大規模な業界再編の可能性

2020年の訪日外客は411万6千人だった。もっとも、新型コロナの影響がほとんどなかった1月が266万1千人であり、4~9月は合計でも3万3千人に過ぎない(図表2)。入国規制を一部緩和した11月以降は月間4~5万人台のペースだ。五輪期間中は選手、大会関係者、メディア関係者などで多少の増加はあっても、年内はこの規模が続くのではないか。

 

期間:2020年〜2021年1月 (出所)日本政府観光局の統計よりピクテ投信投資顧問が作成
[図表2]訪日外客数の推移 期間:2020年〜2021年1月
(出所)日本政府観光局の統計よりピクテ投信投資顧問が作成

 

2020年末、東京、千葉、埼玉、神奈川の1都3県において、従業員100名以上の宿泊施設は240であり、5年前と比べて45増加していた。もっとも、昨年の客室稼働率は31.4%に過ぎない。

 

期待していた五輪需要が不発に終わり、2022年以降も劇的な稼働率の上昇が見込めないとすれば、飲食業なども含めた関連業界は、むしろ五輪後に淘汰や大幅な業界再編が避けられないだろう。
 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『訪日外国人の本格的受け入れ再開は2022年』を参照)。

 

(2021年3月19日)

 

市川 眞一

ピクテ投信投資顧問株式会社 

シニア・フェロー

 

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