こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

台湾では子どものネット学習への理解がある

様々な学習ツールを利用して学ぶ、生涯にわたる「学習能力」が重要になる

 

台湾では、かつて多くの高校や大学において、夜間部が存在していました。その後、生涯教育の一環として、休日や空き時間を使って学習できる学校、たとえば「国立空中大学」(日本の放送大学にあたる)や通信教育が整備されてきました。それに加えて、現在はネット教育も選択肢の一つになっています。

 

私は、これからの時代は生涯にわたる「学習能力」が重要になると確信しています。様々な分野を学ぶことに楽しみを見出すことができれば、人生の幅はもっと広がるでしょう。楽しみながら学ぶのは、決して悪いことではありません。

 

楽しみながら学ぶのは、決して悪いことではないという。(※写真はイメージです/PIXTA)
楽しみながら学ぶのは、決して悪いことではないという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

学習には「こうするべき」ということはありません。各自の「優秀」の定義は、広範だからです。だから、「このようなやり方をしているので、優秀ではない」と簡単に決めつけてはならないと思います。これは家庭や学校だけでなく、企業でも同じです。私たちの国は国民国家であり、民主国家であって、決して企業の国家ではないのですから、人に対して安易にレッテルを貼ることは避けるべきです。

 

六十歳で会社をリタイアしても、台湾人の多くは起業したりボランティア活動を行います。むしろ定年後に黄金時代を迎えると言ってもいいかもしれません。会社は退くけれども、そのまま休むわけではありません。

 

一つ例を挙げましょう。台湾で1999年に発生した921大地震の後に、こんなことがありました。日本の建築家である坂茂氏が、彼の作品である「紙の教会」を分解して台湾に送り、それを組み立て直して台湾中部の南投県に設置したのです。当時、その地域は非常にさびれた場所でしたが、「紙の教会」ができたことがきっかけとなり、人気の観光スポットになりました。数多くの観光客が訪れ、地場産業にとって大きな助けになりました。

 

この案件にはたくさんの人たちが関わっているのですが、中でも、リタイアして時間に余裕のある人たちが、現役時代にもまして一生懸命取り組んでくれました。私たちは彼らを「黄金聖闘士」と名づけました。日本のアニメ『聖闘士星矢』をもじってつけた名前です。彼らは地域作りに大きな貢献をしてくれています。

 

こうした生き方は、台湾では一般的です。仕事をしながら自分で起業するとか、早めにリタイアして創業するとか、いろいろな方法があります。私の父も、リタイア後は非営利の教育活動に携わり、台湾全土を駆け回っています。私自身も33歳でリタイアして、今は公益のために楽しみながら仕事をしているわけです。

 

台湾では、大人が「空中大学」や通信教育のような学習ツールを使い、社会に出た後も学び直しの経験があるので、子どもがネットを使って学んでいくことにも理解があります。現在では、EMBA(Executive MBA)の学位をネットで取得することも可能になっています。大人にそうした経験があれば、自ずとネット教育の良さも理解されてくるでしょう。

 

次ページデジタルに関する素養とスキルはまったく異なる
オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

オードリー・タン

プレジデント社

2020年に全世界を襲った新型コロナウイルス(COVID‐19)の封じ込めに、成功した台湾。その中心的な役割を担い、2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムを構築、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす。…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録