ヒューマンエラーによる医療事故は、減らすことはできてもなくせるものではありません。できる限り減らすためには、「注意しよう」というシュプレヒコールではなく、原因の「分析的な理解」が不可欠です。人間の複雑な行動をシンプルに捉える「行動モデル」について、対談形式で解説します。※本記事は、河野龍太郎氏の著書「医療現場のヒューマンエラー対策ブック」(日本能率協会マネジメントセンター)より抜粋・再編集したものです。

人間の複雑な行動をシンプルに分解する「行動モデル」

――ヒューマンエラーの定義・モデルについて説明してください。

 

河野:私は、ヒューマンエラーを「もともと人間が生まれながらに持っている諸特性と人間を取り巻く広義の環境が相互に作用した結果決定された行動のうち、ある期待された範囲から逸脱したもの」と強調して説明しています。

 

ヒューマンエラーついては、実に多くの人が定義していますが、それを要約すると3つに整理できます。「ある行動があり、その行動が期待するところから外れてしまったのがヒューマンエラーであり、それは偶然そうなったものを除く」、簡単に言うとこうなります。次の3つのモデルが理解を助けます。

 

●レビンの行動モデル(人の行動を決めるのは、人の要因と環境の要因があり、2つに分けて考える)

 

●コフカの行動モデル(環境には、物理的空間と心理的空間の2つがあり、人間の行動は常に心理的空間に基づいて決定される)

 

●天秤モデル(当事者にとってもっとも都合のよいと考えられる行動を選択する)

 

行動を理解しようとする場合、これらのどのモデルを使うのかではなくて、それぞれをリンクして考えることが重要です。

 

――その中で、環境を狭義と広義の2つに分類されていますね。

 

河野:狭い意味とは、文字どおり目の前にある環境のことです。また広義の意味では、その背景にある環境のことです。判断や行動は、たとえばその病院の組織文化や風土に左右されます。これらはすべて、背景にある広義の環境です。

 

また、院内に教育制度があり正しい教育を受けているか、あるいは、そのときの人員配置などにも判断や行動は影響されます。私たちは目の前の物理的環境だけで考えがちですが、このように背景にある環境も、深くヒューマンエラーに関係してきます。近年、ようやくその理解が広がってきて、背後要因として抽出されたことに対して対策が立てられるようになり、徐々に効果も出てきたように感じています。

 

――モデルについて、もう少しご説明ください。

 

河野:先ほど、ある行動があり、その行動が期待された範囲から外れた、それこそがヒューマンエラーだと説明しました。つまり、ヒューマンエラーは行動した結果であり、エラーを理解するためには、行動のメカニズムを理解することが大前提となるのです。

 

そうはいっても、人間の行動は複雑で、そのままでは理解できません。その複雑な行動を極力シンプルにとらえる、それがモデルという考え方です。モデルとは「複雑なものを簡単に理解するための道具」であり「目的に応じて考えやすいように、不要なものを切り捨て、必要なものに範囲を絞って考え、目的を達成しようとするものの見方・考え方」と考えてください。実は、人は、このモデルを無意識に使い分けているのです。

 

――少し難しいです。

 

河野:たとえば、貧血のときには横に寝かせて、足を高くしたりしますね。これは足を巡っていた血液を心臓側に戻し、頭に血液を送ることを目的としています。このとき、その人は足から心臓へという血液の循環モデルを利用し、モノは高いところから低いところに流れるという重力モデルを利用しているのです。

 

こうすればこうなるだろうと、人は無意識にモデルを選んで頭の中で操作しているのです。専門的で難しいことは場合によっては必要ないので、人は常に考えやすいようにモデルを選びながら行動しています。

 

行動のモデルを理解し、結果的にエラーとなってしまった具体的な判断と行動を理解することが、ヒューマンエラー対策に直結する、そう考えています。

 

 

河野 龍太郎

株式会社安全推進研究所 代表取締役所長

 

 

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医療現場のヒューマンエラー対策ブック

医療現場のヒューマンエラー対策ブック

河野 龍太郎

日本能率協会マネジメントセンター

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