前回に引き続き、どのようなケースで「事業譲渡」が有利に働くのかを見ていきます。今回は、スムーズな事業譲渡を実現するために必要な「専門アドバイザー」について考えてみましょう。

事業譲渡には「客観的な視点」が必要不可欠

これまでの連載で、赤字会社が事業譲渡するためには、まず隠れたダイヤの原石を見つけ、それを高く売却することが必要だということを述べてきました。そのために、もっとも大事なのは、買い手の視点で客観的に自分の会社を見ることです。

 

しかし、自分の長所がなかなか見つけられないのと同じように、会社の長所を見つけるのもとても難しいものです。特に経営者ともなると、異業種を経験することなく長年同じ会社の中で仕事をしている場合が多いので、知らず知らずのうちに固定観念に縛られている可能性があります。

 

そこで、第三者の意見をきくために、専門アドバイザーを活用しましょう。

 

もちろん、会社のことを一番よく知っている顧問弁護士や税理士にまず相談するのもよいでしょう。しかし、彼らが事業譲渡などに詳しくなければ、詳しい税理士や弁護士、中小企業診断士、社労士などの専門家を紹介してもらうとよいでしょう。

 

いずれにしても、専門的知識を持ったアドバイザーの意見を必ず参考にしてください。

 

赤字会社の事業譲渡を考える際、取引先や金融機関に相談するのは十分注意してください。事業譲渡を決定する前の段階で、廃業するなどという噂でも飛び交えば、先々の取引にも影響しますし、金融機関では次の融資にも影響しかねません。

 

そうでなくても、金融機関のコンサルタントに関しては、『経営改善支援マニュアル』というものがあり、金融機関が支援企業に経営改善のためのコンサルティングを行う場合には、「支援企業としては、効果が見込める企業を選定することが大事」という要件が記されています。

 

支援するのに効果が見込める会社というのは、当面資金繰り破綻の懸念がない会社という意味で、「少なくとも半年程度の資金繰りがついていない会社は、コンサルティングの対象にはならない」とされています。

専門家の「ネットワーク」を活用して再起を図る

現在、筆者のところには多くの赤字中小企業の経営者が相談にいらっしゃいますが、そのほとんどは1年以内の資金繰りが厳しい状態です。けれども、たとえ業績の厳しい赤字会社であっても、会社に眠るダイヤの原石を見つけることで、赤字を脱却して、GOOD部門の事業譲渡という道を選択することが十分可能だと考えています。

 

いざ、事業譲渡先を探そうと思ってもどのように探したらよいのかが問題です。金融機関や取引先に対して、いきなり「GOOD部門だけを事業譲渡したいと思うが、よい買い手はいないか」と切り出すわけにもいきません。ここが一番悩ましいところです。

 

筆者が税理士、公認会計士、社会保険労務士、中小企業診断士などの仲間とともに一般社団法人中部事業承継紹介センターを立ち上げた目的は、こうした赤字会社のダイヤの原石を買い手に発掘してもらうことを目的のひとつとしています。

 

これまでに士業がそれぞれの専門的分野での活動を通し、培ってきたネットワークを活用して、中小企業の売り手と買い手の「出会いの場」を提供し、中小企業の事業譲渡につなげるのが狙いです。

 

私は、これまで赤字中小企業の経営者がダイヤの原石を持ちながらもそれを活かすことなく廃業を考えているという苦境を目にしてきました。しかし、買い手を探すお手伝いはまったくできませんでした。

 

その一方で、事業を拡大したいと思いながらも、なかなか思うように買いたい事業が見つからないという買い手の経営者もたくさん見てきました。このような両者をタイミングよく引き合わせることは容易ではありません。

 

そのため、事業の売買をスムーズに行い、事業譲渡の市場が広がっていくことを願って、一般社団法人中部事業承継紹介センターを開設したのです。

 

近年では大手のコンサルティング会社が、M&Aの仲介に乗り出して大きな成果を上げています。これらの大手のコンサルティング会社は、相当額の着手金(案件化料)を支払わなければ依頼することができません。

 

着手金を減額する動きもあるようですが、実際に目先の資金繰りも難しい中小企業にとって、事業譲渡先が見つかるかどうかわからない段階で、少なくない金額を支払う余裕はありません。

 

また、仲介に着手してからマッチングが成立するまでに、多くの場合1年以上の期間が必要とされています。これでは、1年先の資金繰りも難しい中小企業には役に立ちません。

 

一般社団法人中部事業承継紹介センターでは税理士、公認会計士、社会保険労務士、中小企業診断士、弁護士などの専門家のネットワークを活用して株式譲渡や事業譲渡の買い手を募ります。

 

しかも、原則としてそれぞれの専門家が長年おつきあいしてきた顧問先の中小企業を「出会いの場」に持ち込んでいることから、早期のマッチングが可能になると考えています。また、営利を目的としているわけではないので、着手金や報酬も不要です。

 

なお、売り手、買い手が税理士などの専門家にサポートしてもらった場合には、それぞれの専門家に各種費用が発生します。

 

事業譲渡にとってもっとも大切なのは、売り手と買い手の信頼関係です。そのため、私たち士業が中に立ち、売り手と買い手を「出会いの場」に持ち込むことによって信頼性を確保するようにしています。

 

中小企業の経営者の方々は、赤字だからといって悲観的に考えるのではなく、ぜひ私たちのような士業のネットワークを利用して、廃業以外の選択肢を検討していただきたいと思います。

本連載は、2015年8月26日刊行の書籍『赤字会社を驚くほど高値で売る方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

赤字会社を驚くほど高値で売る方法

赤字会社を驚くほど高値で売る方法

山田 尚武

幻冬舎メディアコンサルティング

アベノミクスにより日本経済は回復基調にあるといわれるものの、中小企業の経営環境は厳しさを増しています。2013年度の国税庁調査によると、日本の法人約259万社のうち約7割にあたる176万社が赤字法人となっている一方で、経…

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