前回に引き続き、赤字経営から抜け出すための「経営の考え方」を説明します。今回は、買い手の経営戦略を知り、分析する方法を見ていきます。

まず、買い手が行う「経営拡大戦略」について知る

前回の続きです。

 

買い手の視点で自分の会社を分析するといっても、どのように見ればよいのかなかなか難しいでしょう。そのためには、いくつか頭においておきたいポイントがあります。

 

経営拡大戦略のキーワードともいえる多角化ですが、これにはいくつかの戦略があります。

 

まず、水平的多角化と呼ばれるのが、従来の顧客を対象にして新事業や新製品に乗り出す経営拡大です。先に述べた例でいえば、運送会社が別のエリアの運送会社を買収して、都心の店舗が地方の店舗を運営するといった形が考えられます。

 

こうした経営拡大によって、会社は規模や地域の拡大を図ることができるのはいうまでもありませんが、それ以上にひとつのエリア内で水平的多角化を図ることで、重複する事業部などを統廃合することができ、コストカットにもつながります。

 

つまり、1足す1が2ではなく3にも4にもなるというシナジー効果(相乗効果)が得られるわけです。

 

水平的多角化に対して、垂直的多角化もあります。こちらは、同じ顧客に対する水平的拡大戦略ではなく、流通の川上から川下の垂直の流れの中で、別の層の顧客を対象とする戦略です。

 

たとえば、レストランチェーン店が有機野菜の生産に乗り出したり(川下から川上)、先の繊維メーカーがアパレル産業に乗り出してブランド品を販売したり(川上から川下)といった例があります。

 

最近、「第六次産業」という言葉をよく耳にしますが、これは、本来の農業という第一次産業だけでなく、他の第二次・第三次産業を取り込むことから、第一次産業の1と第二次産業の2、第三次産業の3を足し算して六次ともじった造語です。

 

これも農業のブランド化や消費者への直接販売、レストランの経営など生産者が流通から販売まで一気通貫するビジネス戦略であり、農業の垂直的多角化の一例ということができます。

 

こうした垂直的多角化では、自社製品を安定的に供給できるメリットがあり、品質向上や中間マージンの削減などコストカットできるというシナジー効果が期待できるのです。

買い手のメリットを考慮して事業を売ることがポイント

買い手の視点について経営戦略から説明してきましたが、特に中小企業の事業を売買する場合、買い手が一番優先するのはその事業をリーズナブルな値段で買い受けたいということです。

 

M&Aの買い手にとって、最大のリスクは事業の価値を見誤って買い受けることです。高値買収すると、いつまでたってもその事業の黒字化は困難になります。黒字化が難しいということは経営者にとって大きなストレスで、下手をすると黒字化をあせり、せっかく買収した事業をうまく軌道にのせられない場合もあります。

 

この点、赤字の中小企業の事業を買収することは、買い手にとって大きなアドバンテージがあります。赤字会社であることから、黒字会社を買収する場合のように、買い手は「のれん」を考慮せず、事業資産の純資産額に近い金額で買うことができるからです。

 

一方で売り手も時価のため、妥協点を見つけやすくなります。つまり買い手にとって、高値で買収してしまうリスクが小さいといえるのです。

 

中小企業の事業を売買する場合、この買い手にとってリーズナブルな値段で買収できるという点が、大きなポイントとなります。

 

近年、激変する経営環境にすばやく適応しようと多くの企業が多角化戦略によって経営拡大を考えています。そのため、たとえば、ある地域での事業拡大を考えたとき、買収できる会社や事業部門についての情報は、いわば宝の山とさえいえるのです。

 

自分の会社は廃業寸前の赤字会社だと考えていても、事業拡大をねらう買い手にとっては、ダイヤの原石かもしれません。買い手にとっては、赤字や売上げ不振はそれほど問題ではなく、むしろ今まで気づかないところにこそ、会社の魅力が隠れている場合が多いのです。

 

[図表]会社に眠るダイヤの原石とは

 

売り手としては決算の数字ばかりに目をやるのではなく、買い手のメリットを考慮して事業を売るという選択をすることが大切です。

本連載は、2015年8月26日刊行の書籍『赤字会社を驚くほど高値で売る方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

赤字会社を驚くほど高値で売る方法

赤字会社を驚くほど高値で売る方法

山田 尚武

幻冬舎メディアコンサルティング

アベノミクスにより日本経済は回復基調にあるといわれるものの、中小企業の経営環境は厳しさを増しています。2013年度の国税庁調査によると、日本の法人約259万社のうち約7割にあたる176万社が赤字法人となっている一方で、経…

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