リスクの少なさ、事業継続の容易さなどメリット多数
前回の続きです。今回は、事業譲渡が持つ4つの大きなメリットを見ていきましょう。
①個別の売買契約なので簿外債務のリスクが少ない
まず、買い手にとっては、個別に売買契約が結べることは、最大の利点です。何より、帳簿に記載されていなかった簿外債務などを負うリスクがありません。
簿外債務とは、貸借対照表に記載がない債務のことで、たとえば会社が訴訟を起こされていたり、何らかの債務保証を行っていた場合、偶発的に賠償金や保証債務が発生することがあります。
また、中小企業ではいわゆるサービス残業などによる未払賃金や退職金引当金、貸倒引当金なども貸借対照表に記載されていないか、もしくは税法上の繰入金限度額までしか計上されていないことも多く、承継してみたら予想外の負債まで引き受けることになってしまったということにもなりかねません。
前回説明した通り、債務はすべて会社という箱についていますから、株式譲渡のようにいったん箱を引き受けてしまったら、買い手はこの会社について特別清算や破産などにより債務整理をするほか逃れようがないのです。
その点、一つひとつの財産を個別に譲渡することができる事業譲渡には、そうしたリスクが伴わないので安心して売買契約を進めることができるのです。
②事業継続が容易にできる
財産を個別に売買するといっても、買い手はひとつの事業組織を譲り受けることになります。
従業員やノウハウだけでなく、原材料の調達先や販売先など、内外のネットワークごとすべて譲り受けることができるので、事業継続が容易で、「○月○日をもって・・・」という文面で金融機関の口座変更や名義変更を行えば、ひとまず取引の流れが滞る心配はありません。
③GOOD部門だけを切り離して売ることができる
もっとも大きなメリットは、会社が債務超過で、業績不振で収支が赤字になっている部門があっても、いいところだけを切り離して高く買ってもらえるということです。
ここで、前回説明した箱と中身の関係を思い出してください。借金などの債務は会社という箱についていて、事業という中身だけを取り出して売買できるのが事業譲渡でした。
ところが、たとえ箱から取り出しても、中身自体にも悪い部分があれば、売り物にはなりません。
そこで、次に中身である事業自体のGOOD部門とBAD部門に着目します。事業部門ごとの収支を分析してGOOD部門を割り出します。中小企業で、事業部門がひとつしかない場合でも、その中で細かく見ていけば取引先や生産ラインといった区分けは可能でしょう。
そして買い手の視点に立ち、ダイヤの原石を探します。現在の会社においてはBAD部門であっても、他社から見れば多角化経営で大きなシナジー効果を見込めるうってつけのGOOD部門かもしれません。
この場合には、たとえ赤字部門であっても買い手が大きな利益を見込めると判断すれば、事業譲渡が可能になることがあります。
このように事業譲渡という方法を使えば、たとえ債務超過の赤字会社でもGOOD部門という魅力のある事業だけを譲渡することができるのです。
④事業継続や従業員の雇用を守ることができる
会社のGOOD部門を譲渡するということは、たんに事業が売れるというだけのメリットにとどまりません。
放っておけばBAD部門とともに廃業となったかもしれないGOOD部門を救済し、事業継続させることができるからです。それと同時にGOOD部門で働く従業員やその家族の生活を守ることにもつながります。
また、中小企業の場合、会社は経営者個人の財産かもしれませんが、社会的な責任は常に伴います。従業員を雇用して多くの取引先と仕事をし、長年にわたって地域の中で生産活動を続けている以上、事業自体は社会的な公共財としての意味を持っているわけです。
ですから経営者は、経営不振になったからといってすぐに会社を廃業してしまうのではなく、できるだけ事業継続を考える責任があるのです。
そういう観点から見ても、GOOD部門をできる限り存続させる事業譲渡という方法はとても意義のあることではないでしょうか。
連載第2回で説明したように、地方の運送会社には、許認可や一定のエリアに事業所を持つ利点など多くのダイヤの原石が隠されていますが、経験のある運転手といった人材を持つことも、大きな魅力のひとつです。
人材難が問題視されている今、1人採用するために30万円から50万円かかることもあります。このため、会社を支える経験豊かな人材は、ダイヤの原石とされるのです。
自社の経営状況を見直せば新しい魅力を必ず発見できる
こうして見てくると、たとえ赤字会社でも、会社の箱と中身を分けて考えることにより新たな選択肢が生まれてくることがわかります。
赤字会社の経営者の多くは、たとえ採算のよい事業部門があったとしても、会社全体の収支が赤字ではどうしようもないとあきらめてしまいます。ほとんどが、ジリ貧状態のまま廃業するしかないと考えているのです。
けれども、自社の経営状況をよく見直し、事業部門や取引先ごとに分析していけば、必ず新しい魅力を発見することができます。そして思わぬダイヤの原石が見つかれば、そこにさまざまな可能性が広がってくるのです。
もしかしたら経営者の姿勢も変わり、もう一度熱意を持って事業再生を図ろうとするかもしれませんし、子どもや従業員が事業の承継に意欲を燃やすかもしれません。
もちろんそうでなくても、第三者にGOOD部門を譲渡することにより、大事に育ててきた公共財としての事業は、きちんと承継してもらえるのです。