必ずしも「相続時」に共有名義を解消しなくてもよい
共有名義の解消は、必ず相続時に行わなければいけないものでもありません。例えば、売却で合意したとしても、2年くらいすれば確実に不動産価格が上がりそうだという場合は、とりあえず共有名義にしておいてもよいでしょう。
ただし、共有名義のリスクを避けるために共有物不分割特約の登記などの対策はしておくべきです。共有物不分割特約とは、共有者全員で一定期間は分割しないという契約を交わすことです。不分割の期間は5年以内ですが、5年経過後に更新は可能です。
また、第三者への売却ではなく相続人の1人が将来買い取って単独名義にする場合は、買い取るまでの間、共有名義にしておくのも差し支えないでしょう。
例えば、実家に住んでいる長男が他の兄弟姉妹の持分を買い取りたいと望んでいるものの、買い取り資金が工面できない場合です。もし、長男が事業を始めて順調に拡大しており、3年後なら資金のめどが立ちそうだというなら、共有名義のままにしておき3年後に買い取ってもらう約束を交わします。
このとき口約束ではなく、合意事項を書面で残しておく必要があります。事業拡大が順調にいかなくなったときのことも書面に入れておきます。
このように、明確に将来の見通しがある場合は、合意事項を書面にしたうえで共有状態を維持しておくことはあってもよいでしょう。
相続時に「いったん共有名義」にすると、持ち分を実感
本記事に限らず、専門家は「とりあえず共有名義は危ないよ」と警鐘を鳴らしています。少し意外に思うかもしれませんが、「とりあえず共有名義」が絶対にだめだということではありません。それは、「気持ち的な手続きのプロセス」という効果があるからです。
例えば、3人の相続人(長男・長女・次男)がとりあえず共有名義で相続登記することによって3分の1の持分を実感することができます。これで親の遺産である不動産を均等に受け継ぎ、公平な恩恵を受けたという感謝の気持ちが湧きます。
たとえ長男が実家に住んでいて実際の利用状況は公平でなくても、相続登記することで不動産に関してはきちんと3分の1ずつの権利を得たという証しを感じるのです。
これを私流に言わせてもらえば、「気持ちの手続き」ということで、長男が特に親にかわいがられていただとか、末子の次男だけ大学に行かせてもらえたといった過去の不均衡のもやもやを一度リセットできるのです。
こうなれば遺産分割の話し合いもスムーズに運びます。しょせん相続トラブルの根っこは感情のぶつかり合いですから、共有名義にいったんしておくということは、場合によっては感情の潤滑油という効果もあるということです。
相談者を見ていると、実は利害の訴えの奥にこうした気持ちの手続きを望んでいる人が多いと感じます。
世代をまたがないうちに「共有名義を解消」すべき
とりあえず共有名義はあってもいいですが、どこかの時点では誰かの単独名義にして共有名義を解消すべきです。共有名義を解消するタイミングは事情によって違ってきますが、共有名義にはさまざまな制約のリスクがあることは事実だからです。
これまで述べたように、共有名義には売却などに同意が必要といった制限があるほか、放っておいて世代をまたいでいくとどんどん相続人が増えて持分が細分化していくリスクがあります。
また、共有名義を維持しておく場合には口約束は厳禁です。身内同士だと口約束になりがちですが、将来の共有名義の解消についてきちんとした書面で決めておくことが必須です。
口約束だけだと将来のリスクを抱えることになります。書面は必ずしも遺産分割協議書で取り決める必要はなく、兄弟姉妹間の確認書や合意書といった覚書でもかまいません。
松原 昌洙
株式会社中央プロパティー 代表取締役社長
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