相続財産に「不動産」が含まれる場合、親族間のトラブルを招きやすいとされています。そして、問題を曖昧のまま放置すると、孫の代まで絡んで収拾がつかなくなるケースもあります。今回は、相続した実家をきょうだい3人の共有名義にしたことで起こったトラブルについて解説します。※本連載は、松原昌洙氏の著書『不動産相続のプロが解決!危ない実家の相続』(毎日新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

「実家の売却」を巡って共有者の間でよくある食い違い

実家を売却する場合、全員が合意して第三者に売るケースと相続人の1人が他の相続人から買い取るケースがあります。相続した実家が空き家になる場合は第三者への売却、誰かが住む場合は住むことになる相続人が買い取るのが合理的な処置の仕方です。

 

第三者への売却は簡単なように見えますが、実は意外とすんなりいかないものです。売ること自体は合意しても、いわゆる「総論賛成、各論反対」ということに陥りがちだからです。共有者間での主な食い違いには次のようなものがあります。

 

・売却時期で食い違う

・売却価格で食い違う

・売却金の分配で食い違う

・途中で売却撤回に気が変わる

 

例えば、すぐに売ってしまいたいと思っても、共有者の1人がせっかくの親の思いが詰まった家なのだからしばらくはそのままにしておきたいということがあります。また、市況価格が上がってもう少し高くなるまで待とうと主張する共有者がいるかもしれません。

 

売却価格でも、安くてもいいから売りたい、少しでも高く売りたい、目標とする価格でしか売りたくないなどといった食い違いがよく見られます。

 

売却金の分配でも均等割りで納得するとは限りません。例えば、空き家を売却したときに空き家の管理をしてきた共有者が少し取り分を多めにしたいと要望することもあります。

 

当初は売却に同意していても、時間がたつと気が変わることもあります。共有者の1人が売るより貸したほうがいいのではないかと言い出したり、留学から帰国する子供を住まわせたいと思うようになったといった気持ちの変化や状況の変化が起こりえます。

 

なお、第三者ではなく実家に住んでいる身内の共有者に売る場合でも、買い取り価格でもめるケースが多いのは前述のとおりです。

共有の実家のリフォームには「過半数」の同意が必要

相続人の1人が実家を活用するために勝手にリフォームしてしまうということもあります。例えば、次のようなケースがありました。

 

両親が亡くなって空き家になった3階建ての実家を子供である3人の姉妹が相続しました。管理は長女が行っていましたが、場所が人通りのある通りに面していたこともあっていつの間にか1階をリフォームして勝手に喫茶店を始めてしまいました。

 

開店後に知らせを受けた次女と三女は驚いて長女に抗議しました。そのうえで、始めてしまったものはしかたがないが、自分たちにも少し対価を払ってほしいと要求しました。

 

ところが、長女は「自分は3分の1の持分があるのだから好きに使える権利があるはずだ。だから家賃や売上の一部などの対価は払わない」と主張しました。その代わり、「2階と3階を妹たちがどう使おうと口出しをしないし対価も求めない」とも言います。

 

ここでのポイントは、1階の喫茶店への改造は部分的なリフォームである「管理行為」になりますので、過半数の同意が必要なことです。つまり、2人の妹のどちらかの同意を得なければなりません。勝手にやったのであれば違法行為となり、妹たちは訴訟による損害賠償請求も可能です。

 

このような勝手なリフォームは空き家だけでなく、住んでいる共有者が行う場合もあります。

 

例えば、長男・長女・次男の共有名義の実家に長男が住んでいる場合、長男が独断でリフォームしてしまうことはよくあります。長男は共有名義でも自分の家だという意識が強いので、過半数の同意のことなどは頭にありません。他の共有者も見過ごしてしまいがちで、表面化しにくいのですが、過半数同意がトラブルの種であることは同じです。

 

松原 昌洙

株式会社中央プロパティー 代表取締役社長

 

 

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不動産相続のプロが解決!危ない実家の相続

不動産相続のプロが解決!危ない実家の相続

松原 昌洙

毎日新聞出版

本書では、「富裕層ではない一般の人」が親の死亡で実家の不動産を相続したときに起こるトラブルに焦点を当てて、その背景や原因についてわかりやすく説明し、解決策や予防策を紹介します。

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