「P/L至上主義」の経営者は企業の成長力を削ぐ
経費削減は、業績不振企業が真っ先に取り組む体質改善策である。自社が利益を生み出す体質になっているのか。利益を雲散霧消させてしまう体質に陥ってはいないか。
こうした視点での改善活動はもちろん必要である。しかし、間違った経費削減に励むと、企業の成長力を著しく削いでしまうから注意しなければならない。
たとえばキュウリやウリ、カボチャなどウリ科の植物は、必要な剪定をすれば残ったツルの先端がどんどん伸びてその節々に実がなっていく。しかし、一方で、時が経つとツルの根元は茶色く変色し、一見すると枯れているようにも見える。
だが実際には枯れているわけではない。茶色に変色しながらも根から吸収した水分や養分を通す軸管の役割を担っている。根元ががんばって働いているからこそ、水分や養分が果実に運ばれるわけである。
これを企業経営に置き換えてみるとどうなるか。P/L(損益計算書)至上主義の経営者は、削減できるコストはなんでもかんでも際限なくカットしようとする。家賃や借入金の利息といった“ひも付き”経費の場合、その元である借家を明け渡す、借入金を返済する以外に削れないから、それ以外の“ひも付きではない経費”を、役割や意味をよく考えずに削減してしまうのだ。
もちろん、電気やガスの契約を見直したり、IT関連機器のプランを見直したりするなど、徹底的に切り詰めることで効果が出るコスト削減策はある。しかし中小企業経営者は、自社の成長のために絶対に削ってはならない経費があることを知ってほしい。
有効に使われた経費が次の「収穫」の源泉に
具体的には、「①研究開発費」「②試験研究費」「③情報入手費(経営情報や市場動向といった情報を得るための新聞図書費や市場視察費など)」「④広告宣伝費(広義の交際費を含む)」「⑤通信交通費」の5つである。
これら5項目の経費はすべて、先ほどのツルである。「今期は赤字なので新製品の研究開発を控えよう」「新聞広告代がもったいないから出稿を取りやめよう」「東京出張の新幹線代がもったいないから電話営業で済ませよう」―そうやって剪定の範囲を超えてツルを切り落としてしまうと、先端の果実はもはや実ることはない。つまり、切りやすい経費をカットするということは、「実る力を自ら切る」ことに他ならないのだ。
しかしそんな経営者に限って、鉛筆は短くなってから新品を渡すだとか、昼休みに消灯し薄暗いなかで従業員に弁当を食べさせるだとかいっている。あるいは、封筒くらい一枚数円で買えるのに、1時間1000円かかる人件費を出して従業員に封筒作りをやらせているという、訳のわからない原価を作り出していたりする。
それでは自らの手で「振り子」の勢いを止めているようなもので、なんら効果的な経費の節約になっていない。左右に揺れる振り子は重りの位置が高いほど大きく振れる。下がる力(マイナス)が大きければ駆け上がる力(プラス)も大きくなり、その反対もまた然り。
これを企業経営に当てはめると、経費や原価がマイナス部門で、売上がプラス部門である。マイナスの経費を必要以上に減らすというのは振り子を止める動作に他ならず、売上も伸びない。際限なく経費をカットする経営者は思考不足で、ゆえに経営の原理原則、「経営の物理」に反した間違った方針を貫いているのだ。
農業従事者は今年の実りの成果にかかわらず、冬になれば田の土を深く耕し、翌年のために施肥する。稲モミの発芽率を研究し、さらなる豊作をもたらすための投資と努力を惜しまない。農業と同じように、企業経営における経費は尖兵となって出ていく「根肥」であることを忘れてはならない。
必要経費5項目をいかに費用配分できるかが経営の舵取りの妙であり、その結果、有効に使われた経費が次の収穫の源泉となる。企業経営においても「農業思考」に立つことで、成功の糸口が見つかるのである。