「たとえばキュウリやウリ、カボチャなどウリ科の植物は、必要な剪定をすれば残ったツルの先端がどんどん伸びてその節々に実がなっていく。しかし、一方で、時が経つとツルの根元は茶色く変色し、一見すると枯れているようにも見える」…中小企業経営者が「農業」から学べる知恵について、京都ビジネスコンサルタントセンター代表取締役、税理士の石原豊氏が語る。

妻には「飢え死にする時は一緒に死んでくれ」と言った

もっとも、昔の経営者は野心に溢れていた。戦後の混乱期から高度成長期にかけて裸一貫で会社を興した創業者たちである。ゼロからイチを生み出す賭けに人生を捧げ、塗炭の苦しみを味わい、結果に全責任を負う覚悟があった。だから当時の創業者は自責思考の人が多く、パイオニアとして日本経済の歴史に確かな爪痕を残しているのだ。

 

しかし、先代から会社を引き継いだ二代目、三代目はどうか。親が築いた土台に乗っかるかたちで経営をしているからなのか、どこか主体性に欠ける者が多い。もちろん優れた経営手腕を発揮している者もたくさんいるが、創業社長と比べると相対的に他責思考が多いように思えてならない。

 

私自身、かつて天災にすべてを奪われ、仕事の志を立てるために死力を尽くしてきた一人である。1953年9月、大型台風13号によって京都府丹波地方は未曾有の大洪水に見舞われた。その時、山林業を営んでいた我が家は、家屋や家財はもとより事業、田畑、その他一切を流失した。今日のごとくボランティアなし、社会保障なし……まさにないない尽くしのなか、当時高校2年生だった私は絶望の淵に立たされた。寒さと空腹に打ち震えながら迎えた冬の厳しさを、一生忘れないだろう。

 

長男だった私は、「300余年続いた家を再興し、身を立てねばならない」との志を胸に、19歳の春、家出同様に京都市内に出てきた。昼はバイトに精を出し、夜は経理学校で学ぶ日々。会社勤めや商工相談所勤務をしながら、やがて「俺は経営コンサルタントを目指して税理士の資格を取りたい。それで身を立てて家を興すのだ」と一念発起し、税理士国家試験に挑み始めた。

 

試験が行われる8月までに残る日数は半年足らず。最も得意な簿記論一科目に絞り、十何年ぶりの簿記教科書を引っ張り出して受験勉強を独学で始めた。朝6時、身支度を済ませたら朝食もとらずに職場に出向き、「これで遅刻はなし」と一心不乱に教科書に没頭した。帰宅後は、晩飯をかき込んで深夜まで机に向かい、4〜5時間の睡眠を取っては飛び起きて職場に向かう毎日だった。そうした生活が半年足らず続き、延べ600時間の勉強の末、簿記論の一部科目合格通知を手に取ることができた。これが税理士への記念すべき第一歩である。

 

翌年は1100時間かけて財務諸表論に合格。残り3科目は、あえて難しい直税3法に挑戦すべく法人税法と所得税法を選択した。2年かけて2科目とも合格し、相続税法を最後に苦節5年で税理士免許を取得したのだった。その後、会計事務所の立ち上げと同時に株式会社京都ビジネスコンサルタントセンターを設立。税理士という国家資格を武器とした経営コンサルとして立身すべく、経営の大海原に船出したのだ。

 

しかし、開業後の生活がこれまた凄まじかった。前職で受け取った退職金は38万円。デスクの購入や電話回線の開通といった諸々の経費を支払うと貯金は底を突き、開業資金はすべて借入で賄うしかなかった。妻には「1年間食わせる資金はないから、飢え死にする時は一緒に死んでくれ。もしヘソクリがあるなら、それで俺を1年間だけ養ってくれ」と宣言し、開業の日を迎えたのであった。

 

「もしヘソクリがあるなら、それで俺を1年間だけ養ってくれ」 (画像はイメージです/PIXTA)
「もしヘソクリがあるなら、それで俺を1年間だけ養ってくれ」
(画像はイメージです/PIXTA)

 

以降、半世紀、迷える中小企業の経営のサポートに人生を賭してきた。故郷を離れる際に誓った家の再興を成し遂げられたかどうかはわからないが、少なくとも農業従事者が自然に対峙するのと同等の厳しさで仕事に打ち込んできた自負がある。

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本連載は、2017年3月16日刊行の書籍『どんな不況もチャンスに変える 黒字経営9の鉄則』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

どんな不況もチャンスに変える黒字経営9の鉄則

どんな不況もチャンスに変える黒字経営9の鉄則

石原 豊

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の企業の約7割は赤字という現実があります。 現在の日本企業の回復基調はあくまでも一時的なものであり、ほとんどの中小企業は根本的な解決には至っていません。また、人手不足や消費の冷え込みといった課題があるように…

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