生まれつきの色覚異常がない人でも、80歳までにはほとんどの人が色を見分ける力が低下するという事実をご存じでしょうか。研究によると、この「加齢による色覚異常」は20代からはじまっていることが判明しています。「見え方」がどれだけ変化していくのか、データとシミュレーション画像とともに解説。

「ずっと視力がいい人、色覚異常のない若者」ほど危険

色視力が落ちてくるというのは、たとえば若いころは100メートル先から認識できた色が、年をとると20メートルまでこないと認識できないというようなことです。

 

年を重ねなんとなく「目が見えにくいな」と感じたとしても、視力を測って問題がなければ、「気のせいだった」と済ませてしまいがちです。

 

しかし加齢による色覚異常がすでにはじまっていた結果、見えにくさを自覚したケースがたくさんあると考えられます。視力と色視力の関係を白内障手術をうけるような高齢者で見れば、両方同じように落ちていくという相関関係が見て取れるのですが、正常な中高齢者の場合では、視力より色視力が先に落ちているため、視力を測るだけではほとんど気づけないことがあるのです。

 

そうした色視力の変化をいち早く知るために有効であると思われるのが、私が開発に携わった「色視力検査表」(記事冒頭の図表1)です。

 

色を見る能力には、視力と同じように個人差があります。先天色覚異常も、視力が悪い人がいるのと同様に、色の判断が不得意なだけであり、人間的な優劣などとは一切関係ありません。

 

そして加齢による色覚異常による色視力の低下もまた、そのせいで差別を受けるようなものではありません。遅かれ早かれいつかは誰もが体験するけれど、ただいつからはじまるかが人により違うだけです。

 

つまり、色視力は「欠陥」としてではなく「個性」ととらえるべきものであり、正しい色視力を知ることは、自らの見え方の個性を知ることであるといえます。ただし、色の見え方が異なることが、ときに生活上のトラブルを引き起こすこともあるというのは前述の通りです。

 

加齢による色覚異常の進行度合いをきちんと自覚するためにも、やはり色視力に関しての検査が一般の眼科医でも測られるようになることを望みます。

色視力低下のサイン…「こんなこと」はありませんか?

加齢による色覚異常の場合、徐々に進行していくことから、なかなか気づくことができません。しかし、もし、日常生活の中で「黒だと思ってはいた靴下が、紺の靴下だった」というような色誤認がたびたび起こるようなら、加齢による色覚異常やその他の病気の可能性が高いので要注意です。

 

色覚に異常のない若い人でも、薄暗かったり、照明の色が違ったりすると間違えやすいものです。しかし、高齢者の場合、加齢により水晶体が黄色くなっていることに加え、瞳孔の縮小で視界が暗くなります。そのため今まで何の問題もなかった明るい照明の下でも、特に青系統の色を感じにくく、無彩色の黒に見えてしまうのです。

 

また、室内では間違えても太陽光の下では区別できたという経験はよくあると思います。

 

加齢による色覚異常の場合、瞳孔の縮小により視界が暗くなるだけでなく水晶体の黄変によって短波長が阻害されます。一般的な室内照明は太陽光よりも短波長が少ないため、より一層色を判別しにくくなります。

 

そのため室内では区別できなかったものも、太陽光のもとで見ると判別できるのです。見え方に違和感を持ったなら、加齢やその他の病気による色覚異常が疑われますので、検査をすることが重要です。

 

通常の照明下では、黒と紺の靴下を間違えることはありませんが、若い人でも低照度下や照明の色が違う場合などで間違えることがしばしばあります(図表3)。

 

[図表3]見え方の違いシミュレーション:紺と黒の靴下

 

高齢者の場合は、加齢により水晶体の短波長の透過率が減少し、瞳孔が縮小していくことで視界が暗くなります。そのため青系統の色を感じにくくなったり無彩色に近い色に見えてしまい、見分けがつかなくなるのです。

 

しかし室内の照明では区別できなくても、太陽光の下では黒と紺の区別がつけやすくなることもあります。

 

室内は1000ルクス程度の明るさなのに対し、日中の太陽光は1万ルクス以上の明るさだといわれており、さらに短波長を多く含んでいるからです。また、一番はじめに起こる加齢による色覚異常は、雨粒が目で見えなくなることからはじまると考えられています。

 

これは、色味を感じ取る感覚と、動体視力双方に関係があり、窓から見えていた雨粒が見えなくなり、次第に手をかざして雨粒を確認するようになるのです。

 

また、青・黄の色が判別しづらくなるため、図表4のようなストライプに気付かず、「白シャツ」と思い込んで着てしまうこともあります。ほかにも、女性の場合でも、若いときと同じようにメイクをしているつもりでも、色が識別できず無意識に濃くなってしまうことがよく起こるため、注意が必要です。

 

[図表4]「白シャツ」を着たはずが…

 

 

市川 一夫

日本眼科学会認定専門医・認定指導医、医学博士

 

 

 

 

※本連載は市川一夫氏の著書『知られざる色覚異常の真実』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

知られざる色覚異常の真実 改訂版

知られざる色覚異常の真実 改訂版

市川 一夫

幻冬舎メディアコンサルティング

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