全人代開幕、政府活動報告は「政策変更」のサインか?

3月5日より全国人民代表大会が開幕した。冒頭に発表された2021年の国内総生産(GDP)成長率目標は6%超と、IMFや世界銀行の予想を下回った。「保守的な」目標設定に走った真意は一体? Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス)CIOの長谷川建一氏が解説する。

全人代開幕「GDP成長率6%超」IMF予想を下回る発表

中国では国会に相当する全国人民代表大会(全人代)が、3月5日開幕した。李克強首相は、冒頭の政府活動報告で、2021年の国内総生産(GDP)成長率の目標を6%超に設定すると発表した。

 

中国の2020年のGDP成長率が新型コロナウイルスの影響から2.3%成長にとどまったこともあり、IMFの予測では8.1%、世界銀行の予測では7.9%と約8%の水準であった。したがって、6%超という目標設定にとどめたことは、ずいぶんと保守的な目標設定であると受け止められた。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

2021年の成長率は、前年の発射台が低いために前年比較では、大きな振れを伴うことは明白であり、目標設定自体を見送るという観測も出ていたが、結局は予想を下回る保守的な成長目標を掲げた。保守的にしろ6%超という目標を設定した背景は、今後数年間の経済運営を見据えて長期的な視点を重視したものと考えられる。

 

中国政府指導部は、国内需要により経済が循環する自立型経済への移行(すなわち”新常態”)を目標としており、新型コロナウイルス禍の打撃を受けても、内需刺激による経済成長維持の方針を打ち出すことで、持続的で自律的な経済成長路線を目指すことを強調してきた。今年も、短期的に突出した成長率を目指すのではなく、安定的に成長率を維持することのほうが重要であるとのメッセージを打ち出したものと理解できる。

慎重姿勢か?…歳入・歳出見通しは「極めて厳しい」

また政府活動報告では、長期的な成長を支える経済ファンダメンタルズは変わらず、「金融政策は穏健に、財政政策は積極的に」との表現で、今年も経済成長のための環境を整えることが宣言された。

 

2021年の財政赤字は対GDP比で3.2%とする計画である。昨年、新型コロナウイルスへの対応からGDP比3.6%まで拡大させ、積極財政に打って出てことに比べるとやや控えめで、昨年ほどは踏み込まないという意思表示であろう。ただ、市場の事前予想は3.0%程度だったことに比べれば、景気見通しを慎重に考えて、幅をもたせたということなのではないか。

 

一方で、中国財政省が同じく全人代で発表した財政報告によると、今年の歳入・歳出見通しは、極めて厳しいとの認識が示された。

 

歳入面では、前年度からの繰越金などが少ない上に、新型コロナウイルス対策で特別国債を発行する方針でもないことから、余裕があるとはいえない。歳出面では、軍事費はいわずもがなの拡大であるうえ、ほかにもさまざまな分野で財政資金への需要は強く、債務保証や債務の拡大による利払い費用も増加しており、拡大することは避けられない。

 

財政を均衡化できなくなるリスクは増大しており、2021年、財政に余裕があるとはいえない。

 

財政報告には、よく読むと、資金配分の最適化と歳出抑制による財政の持続的な改善を図る方針が示されており、景気が回復軌道を逸脱しなければ、中国政府は、積極的な財政政策姿勢を転換して、むしろ慎重な姿勢に転じても不思議ではないと考える。

 

金融政策にしても、春節前あたりから株価や不動産価格の上昇を懸念するようなコメントを当局担当者が発したり、人民銀行の短期金融市場におけるオペレーションがダブついた資金を回収するものであったりと、牽制球とも思える行動をいくつか見せてきた。

 

中国の市場は、政府の規制が緩和されれば過熱化し、規制を厳しくすると一気に冷え込むということもよく起こってきた。当局が警戒感を持ち、アクセル踏み過ぎを恐れてマイルドに政策調整する方向へ傾く場合には、市場の混乱を引き起こしかねない点には、要注意である。折しも、米ドルの長期金利も上昇に転じており、中国人民銀行の姿勢には注目しておきたい。

輸出急増だが…米国との通商協議には冷ややかな態度か

ほかに目を引いたのは、通商政策への姿勢である。李首相は、TPPに参加することを言及し、日本との自由貿易交渉を加速させることにも触れた。欧州連合(EU)と昨年12月に締結した投資協定についても、迅速に行動に移すと語った。

 

中国税関総署が3月7日に発表した1-2月の輸出はドルベースで前年同期間に比べ60.6%増加と急増した。2月単月では見ると前年同月の2倍強となる強い数字で、米国や欧州諸国などからの、医療機器や在宅勤務向け製品の需要急増が中国の輸出の大幅な拡大を支えていることを示している。そして、これが中国経済のV字型回復の基調を下支えするという構図につながっている。

 

また、輸入も1-2月期は前年同期比22.2%増と、こちらも急増した。中国国内の景気回復が輸入の伸びを押し上げた。国内需要と海外需要は車の両輪であり、両輪が回り始めたことは中国経済にとっては大きな意味がある。

 

ただ、米国との関係や米国との通商協議には触れず、昨年1月の第1段階の合意にも言及しなかった。短く、「平等と相互尊重を基盤とする互恵的な中米関係の成長を促進する」と触れただけである。このあたりは、冷ややかに終わったと伝えられるバイデン大統領と習近平国家主席との第1回会談を踏まえてのことで、米中間の関係改善は世界経済の一段の回復にとっても大きな材料である。

 

バイデン政権は、これまで対中国では人権問題などが先に立ち、対中政策関連では厳しい姿勢を維持している。通商問題でも、実質的な議論は始まっていないが、キャサリン・タイUSTR新代表の氏名は3月3日に上院で承認された。タイ代表は、中国による一連の不公正な貿易・経済慣行に対抗すると表明しており、検閲も貿易障壁として扱う方針である。

 

また、米国の知的財産権の保護を確保するため、昨年1月に締結された第1段階の通商合意にある履行に関する協議の手続きを活用する考えを示し、協議に取り組む前向きな姿勢を示した。通商問題は、米中間の未解決で大きな問題であり、引き続き二大国間の関係を測る上で、今年も重要なテーマである。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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