中国当局、民主的プロセスと民生重視?
第一に、2月13日掲載記事『中国の「5ヵ年規画」…その位置付け、役割、意味合いは?』の一般的規画策定プロセスで触れたように、規画策定過程での各方面から意見聴取は、これまでもなんらかの形では行われてきたが、今回は昨年8月、人民日報、新華社通信、中央電視台など、主要メディアのウェブサイト上でオンライン意見募集が試みられた。ただ、実施することはさかんに宣伝されたが、結果についてはあまり公表されていない。
中共中央紀律検査委員会と政府国家監察委員会が意見募集終了後に発表したところでは、各サイトに設けられたテーマは経済発展、全面深化改革、対外開放、農村振興、国民教育、医療衛生、所得分配、消費向上で、例えば人民日報サイトで関心が高かったテーマは社会保障、科学教育振興、社会治理(ガバナンス)、(意味は必ずしもよくわからないが)精神文明建設など、また党中央宣伝部主管の教育サイト「学習強国」の関連コーナーの閲覧数は3700万以上にのぼった。その他新華社は寄せられた意見が計101.8万件、そのなかから1000余の意見・提案を抽出したこと、習氏が「多くの建設的意見・提案があった。今後の作業で集思広益、広く衆知を集める上でインターネットの役割をより発揮していく必要がある」との重要指示を出したと報じている。
なお、中央紀律委は党員、国家監察委は公職者全般の腐敗汚職など政治倫理上の問題について監督・調査を行う組織で、仮にこれらの部門が意見募集の担当部門になっているとすればやや奇異な感があるが、詳細はよくわからない。
北京市政府は別途昨年9月、微信(We Chat)やウェブサイトなどを通じて市民の意見を募集した。第1週目だけで600を超える意見が寄せられ、うち74%は微信を通じるものだった。市民の主要関心項目は交通網や公共施設などの都市建設管理49%、住居、医療、教育など民生・社会保障15%、ごみ処理、資源節約・循環利用、大気汚染など環境保護10%だった(2020年9月23日付「人民網北京頻道」)。
習政権は国家安全保障や科技創新(イノベーション)の重要性を声高に主張しているが、一般の人々の直接の関心事項は民生関連であることを承知し、2021年年明けの政府各部門の新年工作(活動)会議で、第14次規画の1年目である2021年の重要任務として多くの民生関連項目が議論されたとして以下の項目を宣伝し、「国内大循環」とはまさにこうした民生関連を充実させることに他ならないとの論法を展開している(2021年1月11日付新華社)。
①農産品、特に(中国の食卓に欠かせない)豚肉の安定生産・供給(『中国当局、対米貿易戦争より「豚肉価格高騰」を危惧する裏事情』参照)
②小中学生の教育環境整備
③大都市の住宅問題解決、特に賃貸住宅促進
④社会保障水準の向上、社会保障基金管理の改善
⑤国内大循環の鍵を握る消費促進として自動車などの大型消費促進
⑥顔認証による乗車、ITを活用した運行体制など、公共交通機関の供給側改革によるサービス向上
⑦農村振興、農村居住環境改善を通じて貧困撲滅
民主的プロセス、民生重視を強調する中国当局の姿勢はよいとして、具体的にどのような意見があって、それがどう規画に反映されたか、あるいはされなかったか、その場合の理由はなにかなどについての透明性向上が今後の課題だろう。
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