ETF買い入れに関する日銀から市場への新たなメッセージ

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●TOPIXの前場終値が前日終値から0.5%下落するとETFを買い入れる日銀の従来姿勢に変化。

●日銀は2月18日と19日、約5年ぶりにいわゆる0.5%ルールに従わずETFの買い入れを見送った。

●リスクプレミアムは縮小傾向、ETFの柔軟な買い入れ方針明示なら目標金額撤廃でも混乱回避。

TOPIXの前場終値が前日終値から0.5%下落するとETFを買い入れる日銀の従来姿勢に変化

1月13日付レポート『最近の日銀ETF買い入れ動向』では、日銀がコロナ・ショックに起因する株価の変動を受け、ETFの買い入れ額を柔軟に調整し、対処したことを説明しました。具体的に、1回の買い入れ額の推移をみると、2020年の年初は702億円でしたが、コロナ・ショック後の3月下旬には2,004億円まで膨れ上がり、その後は株式市場の持ち直しとともに減額が進み、2021年の年初は501億円となりました。

 

また、同レポートでは、ETF買い入れのタイミングも確認しました。2020年1月6日から2021年1月12日までの期間について検証したところ、地合いが大幅に悪化した日などを除き、日銀は東証株価指数(TOPIX)の前場終値が、前日終値から「0.5048%」以上、下落すると、ETFを買い入れる傾向があることが分かりました。しかしながら、最近では、この傾向に変化がみられるようになりました。

日銀は2月18日と19日、約5年ぶりにいわゆる0.5%ルールに従わずETFの買い入れを見送った

前述の検証期間後、2021年1月13日から2月22日までの期間について、改めてTOPIXの前日終値から前場終値までの騰落率と、日銀によるETF買い入れの有無を比較したものが図表1です。これをみると、2月18日と19日は、TOPIXの前場終値が、前日終値から「0.5048%」を超えて下落したにもかかわらず(それぞれ0.5368%、0.7570%の下落)、日銀はETFの買い入れを見送りました。

 

(注)データは2021年1月13日から2月22日。騰落率はTOPIXについて、前日終値から当日前場終値までの騰落率を計算したもの。金額はETFの買い入れ額で単位は億円。ETFは、設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETFは含まず。 (出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]TOPIXの変化率とETFの買い入れ状況 (注)データは2021年1月13日から2月22日。騰落率はTOPIXについて、前日終値から当日前場終値までの騰落率を計算したもの。金額はETFの買い入れ額で単位は億円。ETFは、設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETFは含まず。
(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

日銀が、2021年2月18日以前、いわゆる「0.5%ルール」に従わず、ETFの買い入れを見送ったのは、2016年3月18日までさかのぼることになります。つまり、日銀は約5年にわたって、0.5%のTOPIX下落率(前日終値から前場終値)を目安に、ETFの買い入れを続けてきたことになりますが、ここにきて、日銀はそのルールを変更する可能性を示唆しました。

リスクプレミアムは縮小傾向、ETFの柔軟な買い入れ方針明示なら目標金額撤廃でも混乱回避

日銀は、株式市場のリスクプレミアムに働きかけるため、ETFの買い入れを行っていますが、リスクプレミアムが具体的に何かは開示していません。ただ、雨宮副総裁の2019年5月の発言によれば、株式益回りと国債利回りとの差であるイールドスプレッドなどをリスクプレミアムの計測に参照していると推測されます。そこで、イールドスプレッドの推移をみると、足元では縮小傾向がうかがえます(図表2)。

 

(注)データは2010年10月から2021年1月。イールドスプレッドは日経平均株価の益回りから日本10年国債の利回りを差し引いたもの。 (出所)日本経済新聞社、Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]イールドスプレッドの推移 (注)データは2010年10月から2021年1月。イールドスプレッドは日経平均株価の益回りから日本10年国債の利回りを差し引いたもの。
(出所)日本経済新聞社、Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

なお、日銀は現在、金融緩和の点検を行っており、その結果を3月18日、19日の金融政策決定会合で公表する見通しです。現在、ETFの買い入れは目標金額(年間約12兆円相当の残高増加ペースが上限)が設定されていますが、リスクプレミアムが縮小するなか、柔軟な買い入れ方針が示される限り、3月の会合で目標金額が撤廃されても、市場に動揺が広がる恐れは小さく、また、足元の0.5%ルールに従わない行動は、事前の打診とも受け取れます。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『ETF買い入れに関する日銀から市場への新たなメッセージ』を参照)。

 

(2021年2月24日)

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

三井住友DSアセットマネジメント株式会社 チーフマーケットストラテジスト

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。
現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
著書に「為替相場の分析手法」(東洋経済新報社、2012/09)など。
CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。

著者紹介

投資情報グループは、総勢14名のプロフェッショナルを擁し、経済や金融市場についての運用会社ならではの高度な分析を社内外に情報発信しています。幅広い投資家に良質な情報を伝えるべく、活動する機会や媒体は多岐にわたります。年間で約800本の市場レポートを作成し、会社のホームページで公開中(2019年度実績)。

著者紹介

連載【市川雅浩・チーフマーケットストラテジスト】マーケットレポート/三井住友DSアセットマネジメント

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