一方、高齢者が一人で亡くなっていたにもかかわらず、その場にいた警察官の機転により、検視を避けて静かに見送ることができたケースもあります。
それがTさんの事例です。
Tさんは末期の肺がんを患っていた60代の女性です。ご主人と二人暮らしで、在宅で療養を始めて2ヵ月ほど経った頃のことです。
翌日に定期訪問診療を予定していた月曜日の夜、ご主人が外出先から帰ってみると、Tさんが台所近くの廊下で倒れていたそうです。ご主人は慌てて救急車を呼びましたが、救急隊が到着したときには心肺停止で、救急隊が警察に連絡をしました。
少しして警察官が自宅に到着し、倒れていたTさんの様子の聞き取りをしたり、持ち物を調べたりしました。すると、床に落ちていたTさんのカバンの中から病院の診察券が出てきて、警察官はご主人に最近も診療を受けていたかを尋ねました。ご主人が思い出して「そういえば明日、ここの先生に家に来てもらう予定だった」と伝えると、警察官から病院に電話がかかってきたのです。
そこで私がTさん宅に急行し、Tさんはがんの終末期であり、不自然な死ではないことを伝えてその場で死亡診断書を作成。診断書を確認すると、警察官は私たちに一礼をして引き上げていきました。
Tさんの場合、対応した警察官がこの地域の在宅医である私のことを知っていたことも幸いでした。ただこれはむしろ珍しいケースで、一人暮らし高齢者や家族が不在の間の在宅死について、現在は個々の警察官によっても対応が分かれている印象です。
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